彼女を10日でオトします

「はふう」

 暖められた白い空気が目にかかる。戸部たすくの吐息。

「あは。笑わないのって難しいね、キョン。
ほっぺの筋肉がムズムズしちゃった」

 そう言って、はにかむように笑う戸部たすくの笑顔は、なんともいえないものだった。
 言葉にできない。
 安易に言葉にしたくないっていうのが本音で、この表情には、どんな言葉をあてたっておそらく安っぽく聞こえてしまうんじゃないか。
 
 心臓って、太鼓の役割もあるんだわ、きっと。体中に響くの。
 どうん、どうん、って。
 でも、嫌な感じは、しない。

「さあて、行きますか!
へい、タクシー!」

 一変、にんまりする戸部たすくは、右手を上げる。

 すぐに止まったタクシーに乗り込むと、頭を前に突き出してドライバーに耳打ちをした。

「キョン、早くおいでよお」

 私をひっぱる腕の力は、私の動く速度に合わせたようで、驚くほど優しかった。

「どこに行くの?」

 私の問いに、隣に座る戸部たすくは、ニヤリと口の端を上げる。

「サプラァイズ」
と、一言。

「何よ、それ」

「キョンちゃん、占い師なのに知らないの?
イケメンマジシャンの台詞だよ」

 占い師と手品師の接点を教えていただきたい。できれば50文字以内で。

「とにかく、内緒なの。
言っちゃったら、つまらないでしょ」

 ただ不安なだけなんですけど。