アウレリウス公爵はきっと知らない。
 もうファウスト様と私が会っていることを。ファウスト様がもうはじめから、道を踏み外していることを。


 逃げなければ。アウレリウス公爵から。
 転びそうになる力の入らない足で、アウレリウス公爵に背を向ける。


 とにかく会場。パーティ会場に戻ろう。
 そしたら、ビアンカが来てくれてる筈。


 必死に足を踏み出して駆け出す。早く。早く。アウレリウス公爵から逃げなくちゃ。


 後から追いかけてくる感じはしない。
 こんな所で捕まる訳には、消される訳にはいかない。


 まだ今世でファウスト様に何も言えていない。


 だから、走らなければーー。



「愚かな女だ」


 その声が至近距離で聞こえたと同時に、背後から私の首に何かが絡み付く。


「……っ、ぁ」


 ギリギリと首が締め上げられる。振りほどこうと首を絞めるものを引き剥がそうとするけれど、ビクともしない。


 痛い。
 苦しい。
 声が出ない。
 息が吸えない。


 視界が朧気(おぼろげ)になっていく。腕から段々と力が抜けると共に、私の意識は闇に落ちたーー。