「樹弥、俺···神楽を本気で手に入れていいか?」
「今更かよ!」
「今までみてぇなふざけた遊びじゃなくて、本気でこいつが欲しいんだよ」
「神楽はお前が連れてきたお前の子猫だろうが、俺の許可なんていらねぇだろ」
「こいつは正真正銘野良猫のメンバーだからな。総長様にご機嫌伺いをしとねぇとな」
「泣かせんなよ」
「ああ。別の意味で啼かせるかも知れねえけどな」
クッと口角を上げる。
「···あ〜神楽が心配で仕方ねぇわ。何だ、このモヤっとした気持ち」 
額に手を当て、天井を仰ぎ見た樹弥。
「嫁に出す親父の気分じゃねぇのか? それ」
冗談ぽく言って笑った俺に、樹弥は意気消沈した顔を向けてくる。
「そこまで親父じゃねぇぞ。でも···世の中の父親はみんなこんな気持ちになるのかよ」
はぁ···嫁に出したくねぇな、と漏らした樹弥。
おいおい、まず神楽はお前の娘じゃねぇし、まだ嫁にも行かねぇわ。
そんなんだから、神楽に父親っぽいって言われんだろ。

「全部形が付くまで何にもしねぇよ」
「そうか、そうだな。そうしてくれ」
ホッとした顔をしてんじゃねぇよ。
同じ年なくせに、勝手に父親やってんじゃねぇ。
樹弥も、恋愛とは違う感情で神楽を大切に思ってくれてんだろうな。
「後少しだけ、力を貸してくれ」
それで全て終わらせるから。
「当たり前だろうが。チームの問題はチーム全体で形をつけるって相場が決まってんだ」
強い意志を宿した樹弥の瞳。
こいつに、野良猫の総長を任せて正解だったと、本気で思った。
誰よりも喧嘩が強くて、周りを良く見て、末端まで仲間を思いやる優しい心の持ち主。 
強い意志を持ち、誰よりも前に出て戦うこいつが、俺は誇らしかった。

「樹弥は昔から変わらねぇな」
「お前は色々変わったけどな」
「うっせぇよ」
「だけど、ここの奥は変わってねぇよ。一本スジの通った心がな」
「臭いセリフだな」
照れ隠しに笑った俺に、樹弥は笑みを深める。
「俺は今でも総長にはお前が相応しいと思ってる」
「買い被りだろ。俺じゃここまでチームを纏め上げらんねぇよ」
「霧生、お前が俺を立てる為に軽い振りをしてる事は分かってる。だからこそ、俺の後を引き継いで欲しいんだ」
「えっ?」
どういう事だよ。
急にそんな話になってんだ。
「来年の年明けに俺はアメリカに留学する。親父達と話し合って決めた」
「···そうか」
留学する話は前から聞いていたが、そんなに早まるなんて思っても無かった。
「みんなを置いていく様で悪いと思うが、卒業を待たずに行く事になる。後を任せていいか?」
そんな風に言われたら、こう答えるしかねぇだろ。
「ああ、任せとけ」ってよ。
樹弥が居なくなるって知ったら、神楽のやつ寂しがるだろうな。
俺の返事に満足そうな笑みを浮かべた樹弥から、神楽へと視線を落とした。
まぁ、仕方ねぇな。
樹弥が自分で決めた事だ、全力で応援してやるしかねぇだろ。
神楽、お前は寂しいって思えねぇぐらいに俺が甘やかしてやるよ。

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