「霧生にも、悪いことしちゃったなぁ」
「あいつはあれぐらいで問題ねぇよ。優しくしたら付け上がるからな」
総長の言い捨てぶりに笑いが漏れる。
「総長は、霧生には手厳しいよね」
「当たり前だろうが。霧生の今まで見た事もねぇ様なお前に対しての執着怖いんだよ」
「···」
長い間付き合いのある総長でも、そう思うなら相当なモノなんだね。 
嬉しい様な怖い様な複雑な気持ちになったよ。

「まぁ、あれだ。お前は諦めろ」
「な、何を···」
「霧生からは逃げられねぇな」
「怖いんですけど、その言い方」
「言い方も何も、事実だからな。まぁ、これから先の作戦は、霧生に聞け」
「えっ?」
急に何を仰ってるのかな。
「霧生! 入ってこいよ。どうせ、ドアの所で聞いてんだろうが」
総長がドアに向かって呼び掛けると、幹部室のドアが開いた。
えぇ! 霧生、本当にドアの所で聞いてたの?

「呼ぶのが遅せぇ」
「そんなに時間は経ってねぇだろうが」
何言ってんだ? って顔で立ち上がった総長は、通りすがりに私の頭を撫で、こちらに向かって歩いて来た霧生と入れ替わりに部屋を出て行った。
総長が居なくなり、急に心細くなった私は、俯いて霧生の到着を待つ。
今まであった事を霧生に聞かれてたのも、何だかバツが悪いんだよね。
「お前は俺の子猫なのに、総長に懐き過ぎ」
ぶっきらぼうにそう言うと、霧生は私の隣にドカッと腰を下ろす。
醸し出す空気が苛ついてるのが丸わかりですよ。
「べ、別に懐いてるとかじゃ無いし」
総長の事は信頼してるけど。
「俺に何も話さねぇ癖に、総長には素直に話すとかムカつくんだよ」
「いや〜だって、霧生には話し辛い内容だし」
「分かってる。話せなくしてたのは、俺自身だってこと。だから、自分に一番苛つく」
霧生はそう言うと、胸ポケットから取り出した煙草をくわえ火を着けた。
あ···霧生が煙草を吸う姿初めて見たかも。
唇の端に煙草をくわえて吸う横顔は、やたらと色気があって目のやり場に困った。

「ん···悪りぃ、煙たかったか?」
私に目を向けた霧生は、吸い始めたばかりの煙草をテーブルの上の灰皿に押し付けた。
「消さなくても良かったのに」
勿体無いから、と言った私に霧生は優しく笑ってこう言った。
「神楽に、受動喫煙させたくねぇからな」
あ、うん、それはありがとう。
「霧生も、幹部のみんなも優しいよね」
幹部室のテーブルにはいつも灰皿があるのに、私のいる時はみんな吸わない様にしてくれてるんだもん。
私、大切にされてるよね、本当に。