私が何も知らない間に、みんなは私の為に動いてくれていて。
自分だけが辛いんだと、悲劇のヒロインになってただなんて恥ずかし過ぎる。
霧生にだって冷たい態度とったりしてた。
まぁ、霧生は全く堪えてないみたいだったけど。
それでも、私のやってた事は無駄な上に酷い事だったもん。
落ち込む···すっごく落ち込むよ。

「神楽、お前、鮎川舞美と接触しただろ?」
「あ、うん」
どうして分かったんだろう。
私、誰にも言ってないのに。
「あの女に何を吹き込まれた? 俺に話してくれるよな」
総長は笑顔なのに、何故か途轍もないプレッシャーを感じた。
「う、うん。話すよ」
戸惑うことなくそう言った私は絶対悪くない。
ゆっくりとあの日あった事を語り出すと、総長から漂う空気が殺気に満ちてきた。
話に詰まるとプレッシャーを含ませた視線だけで促され、私は洗いざらい話す事になったのである。


「神楽···お前さ···馬鹿だな」
溜めに溜めて言う言葉はそれですか?
「···」
「お人好しと言うか、単純と言うか。抜けてるにも程がある」
ディスられてる。
すっごくディスられてる気がする。
いや、自分でも思うよ。
まんまと舞美さんの策略にハメられたなぁって。
「反論出来ないのが辛いよ」
総長に話しながら、落ち着いて考えると自分でも思ったもん。
あ、これ、やられたやつだなって。
今まで抱かえていた苦しみや切なさが、ごっそりと剥がれ落ちた。
舞美さんの妊娠云々に関しては、女としての同情は無くなってないけど、あの涙が嘘泣きだった知って、何とも言えない気持ちになった。

「お前、騙されやすいな。年食ったらオレオレ詐欺に気をつけろよ」
「···老後の心配までありがとうございます」
力の抜けた声でそう返す。
「俺に親父とか言ってる場合じゃねぇな」
「やっぱり根に持ってたんですね」
「···っ··話を戻すぞ」
いやいや、総長、自分で話の路線変えたよね。
胡乱な目で総長を見つめた私は悪くない。

「私···本当、何をやってるんだろうな」
呟く様にそう吐き出したら、総長が仕方ねぇなって顔で笑った。
「一個ずつ賢くなってきゃいいんだよ。人ってのは狡いって勉強になったろ?」
「うん。私、母親の事や義父の事があるから人を簡単に信用して無かった筈なのになぁ」 
どうして、舞美さんを疑わなかったんだろう。
「お前の弱い所を突かれただけだろ? 子供や身体の事を打ち明けられりゃ同じ女として同情するのは当たり前だ」
私を慰める様に言った総長の言葉に、確かにそうだと思った。