「なら俺は、警察の警備の穴を探る。光と情報を擦り合わせてルートを見直しておく」
コウがそう言って光を見ると、彼は同意だと頷いた。
「俺は当日襲撃してきそうな連中の警戒と、情報を集めておく。うちには、狙われやすい紅一点が居るからな」
それは、私の事だよね 霧生。 
隣を見上げれば、意地悪な顔をした霧生が、ポンッと私の頭に手を置いた。
地味に重いんだけど、それ。

「霧生、ちょっと近いよ」
肩が触れ合う程の距離は必要ない。
「俺の子猫は最近反抗期で困る」
やれやれと首を左右に振った霧生に、離れる気配はない。
「いや、だから反抗期って何?」
「今のお前その物だろ」
何が楽しいのか霧生は口角を上げて笑う。
私が何を言っても取り合ってくれない霧生をうんざりとした目で見つめれば、総長の笑いが聞こえた。
「霧生、構い倒すのもいい加減にしとかねぇと、本気で嫌われるぞ」
「嫌われたら、閉じ込めて監禁するだけだろ」
隣から聞こえた犯罪臭のする言葉にギョッとなる。
監禁てなんだ···監禁て。
不意に私に向けた霧生の瞳の奥が怪しく光る。
ぞわりと背中を這い上がる何かに、焦りを覚えた。

「最近、霧生が犯罪者に見えんだけど、俺の気のせいか?」
口ではそう言いながらも、コウは楽しそうだ。
く、くそう! 他人事だと思って。
「神楽ちゃんは、僕が守るからね」
「わ〜心の友だよ、光ぃ」
ほんわかと笑いかけてくれた光に思わず伸ばした手は、無情にも霧生に叩き落とされる。
「俺の目の前で他の男に尻尾を振るなんざ、いい度胸だな」
最近の霧生は、独占欲をまるで隠さない。 
自分は舞美さんと言う彼女がいるって言うのに。
心の奥に、仄暗い雫がポトリと落ちる。

「私が誰と仲良くしても霧生には関係ないし。だいたい最近ウザいお父さんみたいだよ」
キッと睨んで霧生を見れば、奴は楽しげに笑った。
「お前の親父役は樹弥だろうがよ」
あれ、それって霧生が総長に言っちゃ駄目だって言ってたやつじゃないか。
どうしてこのタイミングで暴露したんだよ。
慌てて総長を見れば、打ちひしがれたように私を見つめてた。
「あ〜総長ごめんなさい。こ、これはモノのたとえなんだよ。本当にお父さんとか思ってないよ。頼り甲斐があって懐が広くて、お父さんだなって感じるだけで」
身振り手振りをしながら必死に弁明した。
なのに、総長はさらにズーンと落ち込んだ、なぜだ。
「神楽ちゃん、それ追い打ちかけちゃってるからね」
アハハと声を上げて笑った光。
あぁ、ごめん、総長。
追い打ちをかけたわけじゃなかったんだよぉ。