闇の果ては光となりて

ダンスフロアーへと続く黒いドアを押し開け入った先は、光と音と人で溢れかえっていた。
その空間に居る多くの若者が、思い思いの一時を楽しんでいる。
広いフロアーの天井はとても高くて、中央には丸く作られたステージと一体化したバーカウンターがあり、その周囲を光のビームが所狭しと暴れ回っていた。
フロアーの左端にはスタンディング専用のテーブルが設置されていて、右端には透明なガラスで囲われたDJブースがあった。
中央奥の螺旋階段の上部にはVIP席らしい箱が何部屋か用意されていて、ガラス張りのそこに幾つかの人影が見えた。
高い天井に設置された大きなスピーカーから、音のシャワーが降り注ぐ。 

経験したことの無い熱気と興奮に、思わず腰が引けた。
ドアのすぐ側で立ち止まった私を、不思議そうに振り返ったコウ。
「心配しなくても食われやしねぇ」
クスクス笑って私に手を差し伸べる。
「べ、別にそんなの思ってないし」
「顔が強張ってんだよ」
「仕方ないでしょう。クラブなんて初めてなんだもん」
「なら、今日は目一杯騒いで楽しもうぜ」
「うん」
差し伸べられた手を掴むと、コウは嬉しそうに口角を上げた。
照明を落としてるはずのフロアーは、あちこちから照らすLEDの光で溢れ、特別な音響システムが響かせる音楽は自然と身体にリズムを刻んだ。
ワクワクするような、ドキドキする様な、そんな気持ちが高揚してくる。

「踊ろうぜ」
「うん」
ダンスなんてろくに知らない筈なのに、コウにリードされダンスフロアーに足を踏み入れると自然と身体が動いた。
周囲の客達も思い思いのダンスをしていて、恥ずかしいなんて気持ちは湧いてこなかった。
溢れる音と光に身体を委ね、身体を動かすのはとても気持ちが良かった。
「楽しいか?」
近い距離に顔を寄せてきたコウ。
「うん、楽しい」
「そりゃ、良かった」
「連れてきてくれてありがと、コウ」
「んな、改まって礼なんて言わなくても、いくらでも連れてきてやる」
「うん。楽しいー!」
ノリノリの曲に全身で楽しいと表現しながら、私の顔に浮かぶのは満面の笑み、それを見たコウは満足そうに顔を緩ませた。
初めての場所、初めての経験、初めてのダンス。
そのどれもが、私の気分を天辺まで押し上げていた。
こんなに楽しいのは、いつぶりだろうか。
際限無く上がるテンションを、怖いと思わなかったのは、その場の空気と目の前にあるコウの笑顔のおかげだったに違いない。