闇の果ては光となりて

テストも終わり、季節は梅雨へと突入した。
幹部室のソファーに座り、膝の上に広げた本を見つめながら、ぼんやりと過ごす日々が続いてる。
本の内容はあまり頭の中に入ってない。
こんなに、平和でいいのかなぁ。
そこ儚く不安になる。

野良猫は鬼夜叉の事件以来落ち着いてる。
他のチームと末端の小競り合いはあっても、それが大きくなる事はない。
いつもと変わらない、いつもの日々を過ごしてた。
あの日が夢だったのかも? なんて思うほど穏やかな日々に、少し肩透かしを食らってる。
家を出るまで、いつも怯え、不安を抱かえて過ごしてた。
何年もそれが当たり前で、こんなに穏やかなのが逆に不安を募らせた。
今の穏やかさが、先の波乱に繋がってるんじゃないかと、勘繰ってしまうのは、私が天の邪鬼なのかも知れないね。

霧生は今も彼女に呼び出されては時々居なくなる。
それを寂しいと思ってしまうのは、私の我儘だ。
行かないで、霧生の背中に何度か言いそうになった。
だって、彼女の元に向かう霧生の顔が苦しそうに見えて、私まで胸の奥を掴まれた様な気持ちになったんだ。

私に出来る事なんて何もない。
霧生の過去を知っても、何一つしてあげられない自分がもどかしいな。


「神楽、今日の夜クラブに行かねぇか」
不意に聞こえたコウの声に顔を上げる。
対面のソファーに座るコウが、こちらを見てニカッと笑ってた。
「クラブ?」
「そうそう。繁華街にあるクラブメモワールな」
「それって何?」
「はぁ? お前知らねぇの」
知らねぇわ。
「踊って飲んで騒ぐ所じゃねぇかよ」
首を傾げぼんやりとコウを見てた私に、何とも簡単な説明をしてくれたコウ。
「そうなんだ」
「気の抜けた返事してんじゃねえよ」
理不尽だな、おい! 
「はぁ」
「みんなも居ねぇし、暇潰しに遊びに行こうぜ」
コウの言う通り、今夜は偶然にも私達2人以外の幹部はみんな出掛けてた。
光は友達と遊びに行き、総長は実家の用事で出掛けてる。
そして、霧生は···言うまでもなく彼女の所。 
そう思い至って、胸の奥がツキンと痛んだ。
大丈夫、こんなの何でもない。

「···うん、そうだね」
「雨ばっかりで、溜まり場にばっかり籠もってても気が滅入るだろうがよ」
私を思いやってくれたコウの優しさに笑みが漏れる。
「どんな格好でいけばいい?」
クラブなんて行ったことないし。
「別に普段着で問題ねぇよ。俺もこのまま行くし」
赤いのカットソーとブラックのパンツに、七分のデニムのパーカーを羽織ったコウは、相変わらず派手だ。