闇の果ては光となりて

校門でツッキーと別れ、迎えの車に乗り込んだ。
しばらくはこの総長車で送り迎えすると言われたのは今朝の事。
黒塗りのレクサスは、半端なく厳つい。  
「おかえり」
後部座席にドカッと座った総長が声をかけてくれる。
「ただいまです。遅くなってごめんなさい」
総長の隣に座りそう返す。
「ああ、問題ねぇぞ。怪我の具合はどうだ?」
「大丈夫ですよ」
「そうか、ならいい。で、気はすんだか?」
何をと聞かなくても、3年女子の事だと言うのは分かった。
私達より先に戻った周防君達が、総長に事の顛末を報告したのは間違いないだろう。
「まぁね···少し後味は悪いんですけどね」
「そうか。その件はこっちでも調べるから、1人で気負うんじゃねぇぞ」
「うん」
ポンポンと頭を叩かれ俯き気味に頷いた。
私の想像通りなら、霧生はきっと苦しむんだろうな。
「なんて顔してんだ」
「えっ?」
思わず顔を上げ総長を見る。

「情けない顔をしてんな。起こった事実は認めるしかねぇし、あいつもそろそろ本気で向き合わなきならねぇ」
誰の事とは言わないけど、総長の言葉尻にはその相手を心配する思いが含まれていた。
「そうですね」
「しかし···お前も一番面倒な道を選んだな。選択肢は山ほどあるってのに。コウや光にしときゃ泣かなくていいのにな」
「心が勝手に動き出しちゃったから···。自分でも馬鹿だなぁって思います」
あの瞬間、動き出した心はもう歩む事を止めたりしない。
「まぁ、お前を見つけて拾ってきたのは霧生だからな。懐くのは仕方ねぇか」
クククと笑い総長は、正面へと目を向けた。
この人は色んな事を見透かしてるんだろうな。
まだ誰にも言ってないのに、私の気持ちの進んだ先を簡単に言い当てるなんて。

「総長、私、この思いが届かなくてもいいです。今まで通り側にいて、笑う顔が見られたらそれでいい」
総長に話しかけた癖に、最後の方はただの呟きになった。
「お前は欲がねぇな」
「だって、私、愛情ってよく分かんないんです」
お祖母ちゃんが生きてる頃は愛されてたのかも知れない、でも母親から愛された覚えなんて無くて、1人でずっと寂しさと戦ってた記憶だけが残ってる。
「···不器用だな。今のお前はもう1人じゃねぇ、それだけは覚えとけ」
総長はそう言うと、腕を伸ばして私の頭を抱き寄せた。
霧生とは違うムスクの香りがふわりと私を包み込んだ。
ドキドキとは違う、とても安心できるその香りに私は静かに目を閉じた。