「貴方は誰なの?」
話を伸ばして、出来るだけ時間稼ぎしなきゃ。
「ああ、そう言えば、子猫ちゃんとは初顔合わせだな」
この男、頭は弱そうだ。
私の誘導に乗った男に、心の中でほくそ笑む。
「だから、誰なの?」
「俺は鬼夜叉の総長の岸部聡(しきべさとし)だ」
「ふ〜ん。その岸部さんは、私を攫ってどうするつもりなの」
「話に聞いてた通り、気が強そうだな。そんな女を屈服させるのは面白そうだ」
私の身体を頭の上から足の先まで舐めるように見下ろした岸部。
気持ち悪い、こいつ。
ぞわぞわと悪寒が背中を走る。
震えそうになる手に握り締め誤魔化す。
あ〜もう、岸辺の気持ち悪さに話す事無くなってきたよ。
話題、何を話題にしたらいいの。

「わ、私の気が強いだなんて誰が言ってたのは誰?」
「お前を見張ってたうちの連中と、野良猫に新しい子猫が入ったって教えてくれた女だ」
「···チッ、余計な事を」
あの3年の女達、本当に許さない。
この時、岸辺の言った女が一人称だった事を不思議に思はなかったのは、今の状況に焦っていたからなのかも知れない。
「そろそろくだらねえ話はもういいか? お前を犯してその写真を野良猫に送り付けてやんなきゃなんねぇんだよ」
だから、笑うな気持ち悪い。
だいたいそんな事するなんて、悪趣味過ぎるよね。
「ま、まだ話は終わってないよ。岸部さんは、どうして野良猫を襲うの?」
「目の上のたんこぶは邪魔だろうが」
「そんな理由で卑怯な手を使ってるって言うの!」
本気で頭にきた。
「野良猫が居なくなりゃ、うちがここらで一番になれるんだよ」
「自分勝手だね。一番になりたいなら卑怯な不意打ちとかせずに、正々堂々と戦いなよ」
「本当、生意気な女だな、お前」
「私は間違ってる事を間違ってるって言ってるだけだよ」
「うるせぇよ」
「正面から行ったら野良猫に負けるのが分かってるからって、狡をしてる人が一番になんてなれるわけない」
強い口調でそう言い切った時、大きな爆音と共に何台ものバイクのエンジン音が鳴り響いた。

来た···みんなが来てくれた。
野良猫だって確証はないはずなのに、この時の私はみんなが来てくれたって自身を持って言えた。

「総長! 野良猫の襲撃です」
アフロが部屋に駆け込んでくる。
「はぁ? 来るのが早すぎるだろうが」
「そんなこと言っても来たんですよ。この建物を包囲されてます」
「くっそ···てめぇ、時間稼ぎしたな!」
憎々しげに顔を歪め私を睨みつけた岸部。
今頃気付いても遅いよ。
「総長、早く逃げましょう。今ここにいる人数じゃ勝ち目なんてありません」
アフロが焦った口調でそう告げる。
逃がすか! ここで終わりになればいいんだ。

「尻尾を巻いて、早く逃げたらどうかな?」
怖いよ···挑発なんてしちゃいけないと分かってるけど、こいつらは逃さない。
恐怖を圧し殺し、挑発的に岸部を見て微笑んだ。