波止場から街灯の少ない脇道を進み、15分ほど歩いた場所にそれはあった。
そこに近づくに連れ、ざわめきと爆音が耳に届いた。
いったい何処へと連れて行かれるのだろうかと、不安がせり上がるも、なけなしの勇気を振り絞り足を進める。
手首を掴んでいた霧生の手が、いつの間にか私の手を絡みとっていた。
なんなのこの、自然な早業。
恋愛に免疫のない私はドキドキしっぱなしだっだよ。
もちろん、色んな意味でだが。
しっかりと握り締められた手が、大丈夫だと言ってる気がしないでもないけど。

いくつか立ち並ぶ倉庫街の一角に、大きなハロゲンランプをいくつも灯した場所があった。
大きく開かれたシャッターの前には、数え切れないほどのバイクと数台の高級車が停車している。
そして思い思いに座ったりはしゃいだりしている少年達が何十人といた。
いやいや···待って待って、ここどこよ。
かなり、とんでもない場所だと言うのは間違いないよね。
「···ちょ、ちょっと···」
霧生の手を引くように、目指してるあろう倉庫の少し手前で立ち止まる。
「ん? なんだよ」
突然歩みを止めた私に訝しげに眉を寄せた霧生。
「なんだよじゃなくて。貴方、危ない事はないって言ってなかった?」
「別に危なくねえじゃねえかよ」
サラッと返してきたけど、間違いなく危ない場所だよね。
柄の悪そうなヤンキーが、屯してるここが危険な場所じゃないって可笑しいよね。
「いやいや、どう見ても危ないよね」
「危なくねぇって。つうか、寒みぃんだから、さっさと歩けよ」
どんだけ上から目線なのよ。
「···」
帰りたい···切実に思う。
今は家には帰れないけど、母親の夜の仕事が終わる時間ぐらいに家に帰ろう。
あの倉庫に入ったら、絶対駄目だと私の本能が告げてるし。

「マジで、風呂に入って温まって着替えねぇと、体壊すぞ。お前、唇が紫色してるぞ」
心配そうに見下ろす霧生に、倉庫の中にお風呂なんてものがあるのかと突っ込みそうになる。
いや、実際突っ込んだ。
「倉庫でお風呂っなによ?」
「心配しなくてもあん中は快適に過ごせる様に出来てるぞ」
斜め方向の返事が来た。
「無理、行けない」
カラフルな髪色と髪型の集団に足が竦んで動きそうもないし。

「だったら。仕方てぇな」
その言葉に私を連れて行く事を諦めたのだと喜んだもの束の間。
私の手を離した霧生は何をを持ったのか、私の胴体に腕を巻き付け米俵の様に私を肩に担ぎ上げた。
「ひぇー!」だか、「ほひょー」だか、女の子らしくない悲鳴を上げてしまったのはこの際許してほしい。