「おはよう。2人も今から学校?」
「ああ。面倒癖ぇがテスト1週間前だからな」
眠そうに片目を擦りながらそう答えたコウは、不良な癖にこういう所は真面目。
「不良高って呼ばれてても、テストも出席率も大事だからねぇ」
光の言葉に、小説みたいにはいかないんだと思った。
何をやっても許されるのは中学生までだよね。
「フフ、だよね。あ、今日からテスト勉強する?」
うちの学校より2日ほどテストが早かった気がするけど。
「うん。頼めたら助かるぅ」
「了解。じゃあ放課後に」
手を振って別れようとした私の肩を掴んだのはコウ。
「おい! 勉強すんなら、俺も入れろよ」
「えぇ〜コウもぉ〜」
そう言ったのは私じゃなくて光、アヒル口でコウに向かって抗議してる。
私は別に一緒に勉強すればいいと思うんだけどね。
「光に聞いてねぇだろ」
いや、だから、私の肩を掴む手に力を込めるのは止めて欲しい。
地味に痛いんだけど。

「だって僕が先にお願いしたんだもん。それにコウは1学年上じゃん。僕等とは勉強内容違うよね」
まぁ、もっともらしい言い訳だね。
「···っ」
悔しそうに唇を曲げるコウに、救いの手を差し出したのは霧生。
「だったら、俺が参加してやろうか?」
口角をゆるりと上げた霧生は、私の肩を掴むコウの手をゆっくり引き剥がした。
そう言えば、霧生と総長は3年だったっけ。
「えぇ〜霧生まで増えるのぉ」
光は迷惑だとばかりに大袈裟な溜め息をつき、眉根を下げた。
「お前、神楽と2人きりで勉強出来ると思ってたのかよ。んな事、させる訳ねぇだろうが」
低い声で唸る様に威嚇した霧生。
たかが勉強会なのに、不穏な空気が流れ出したよぉ。
学校にも行かなきゃいけないし、この辺で話を纏めてしまおう。
「光、勉強するなら谷本さんも誘いたいし、みんなでやろ?」
「えぇ〜谷本達もぉ」
さっきから、えぇ〜の連発だねぇ、光。
「うん。初めからそのつもりだったしね。じゃあ、放課後ね。霧生、学校に行こう」
「ああ。鞄貸せ」
頷いた霧生は私の手から学生鞄を奪い、入り口に向かって歩き出す。
それを追いかける為に、私は光とコウに手を振り背を向けた。

「そ、そんなぁ〜神楽ちゃ〜ん」
光の情けない声が後から追い掛けてきて、思わず吹き出した。
「プッ···光って可愛い」
「あれは、可愛くねぇ。我儘なだけだろうが」
隣を歩く霧生が呆れた様に言う。
「弟が居たら、あんな感じなのかな? って思うと可愛いもん」
「ククク、弟かよ」
「うん。光は弟。総長はお父さん、コウは···喧嘩友達かな?」
顎に人差し指を当て、う〜んと考えた後、答えてみた。
「プッ···樹弥がお父さんってなんだよ、それ」
お腹を抱え笑い出した霧生に、それは笑い過ぎだろうと思った。
だって、笑わそうとして言ったわけじゃないんだけど。