「あ、はい」 
頷いた私を見て、総長は口を開く。
「霧生達とも話したんだが、神楽がうちに入って此処に住むに当たり教えてもらいたい事がある」
「はい」
「今から聞く事を言いたくないならそれでいい。でも、万が一何かが起こった時、一緒に居て俺達が守れねぇ事態になるのは困る。俺達は仲間を全力で守りたいんだ」
総長の力強い言葉に胸が熱くなった。
世の中の大人達に煙たがられる暴走族って存在でも、彼らは彼らなりのルールで今を生きてるんだと知る。
そして、昨日出会ったばかりの私を仲間だと呼んでくれるこの人達の優しさが嬉しい。

「何でも聞いてください」
私には隠さなきゃいけない事なんて、何にもないしね。
「そうか。なら聞く。お前、昨日何から逃げて来た?」
「えっ?」
どうして私が逃げてきたって分かったんだろう。
「夜の遅い時間に女が一人で出歩くなんて、逃げてきたら男を釣りに来たぐらいだろ? 神楽はわざわざ男を釣らなくても、嫌ってほど寄ってくるだろうしな。だから前者だと思った」
そんな簡単に言ってのけられて、唖然とした。
総長って、なんだか年配のお爺さんみたいに達観してるなぁ。
「お前、今、失礼な事考えなかったか?」
「い、いえいえ、滅相もないです」
目を泳がせた私を睨み付けた総長の眼光の鋭さに首を竦めた。
ご、ごめんなさい、総長。

「で、何から逃げてきた?」
ソファーに膝を立て、そこに頬杖をついてこちらを見た霧生。
うぅ、無駄に色っぽいよぉ。
「ち、父親。襲われそうになって近くにあった灰皿で殴って逃げてきた」
そう、義父に襲われた時に、とっさに暴れた私に手に当たった灰皿であいつの額を殴りつけて逃げて来た。
私の話を聞いた霧生の顔色が変わる。
総長も光も心配そうに私を見つめてて、少し居た堪れない気持ちになったけど、私は自分の事情を全て話すことにした。
母親からのネグレクトに始まり、義父からの虐待、そして挙げ句の果は襲われた事まで。
誰も口を挟まずにただひたすら私の話を親身になって聞いてくれた。
ちょっと重い話になってしまったけど、まぁそこは許して欲しい。
でも、私は知ってるから、自分だけが悲劇のヒロインじゃないってことを。
野良猫に集まる皆が、多かれ少なかれ何かしらの事情を抱えてるって事も、何となく分かるしね。
そりゃ中には、群れて暴走したいってだけの人もいるかも知れないけど、人間ってのは闇を持ってない人なんて居ないと思うから。