「そう威嚇するんじゃねぇよ」
ワシャワシャと髪を撫でられた。
霧生の馬鹿! せっかく整えたのに乱れるじゃん。
「止めてよ」
パシッと霧生の手を叩き落とすも、霧生は楽しげに口角を上げるだけで、反省なんてしてない。
「はい、これどうぞ。オレンジ飲めるかな?」
茶髪君が、パックのジュースを差し出してくれる。
「あ、ありがとう」
受け取ってお礼を言えば、彼は優しく微笑んでくれた。
「どういたしましてぇ」
うわぁ、八重歯可愛いねぇ。
男の子なのに、なんて可愛さなんだろう。
軽やかに対面の席に去っていく彼を見ながら、ぼんやりとそんな事を思った。

「で···そいつは誰だ?」
威圧を含んだハスキーな声が部屋に響いた。
ビクッと肩を揺らし、そちらをちらりと見れば黒髪が霧生へと鋭い視線を向けていた。
座ってはいるけれどその体格の大きさは歴然で
190センチぐらいあるのかなぁ。
がっしりとしたガタいの厳つい男は、黒髪をツーブロックの刈り上げミニマッシュにしていた。
大きな黒目と厚ぼったい唇は、これまた霧生とは別の種類のイケメンだ。
「防波堤で拾った子猫。今にも死にそうな顔をしてたから助けてやろうとしたら、海に落ちた。ずぶ濡れのまま放ってもおけねぇから連れてきただけだ」
黒髪の威圧を気にするでも無く、軽い口調でそう返した霧生。
だから、私は死ぬつもりなんて無かったからね。

「···どうすんだ?」
黒髪のその言葉には色んな意味が含まれてるんだろうな、他人事の様に聞いていた私の耳に飛び込んできたのは、霧生のとんでもない言葉。
「こいつ、子猫みてぇだろ? うちのペットにぴったりじゃねぇ?」
「「はぁ?」」
私と赤髪の声がいいタイミングで重なった。
ペットってなによ、それ。
だいたい、私はそろそろお暇するつもりなんですけど。
「その女をうちに入れるってことかよ」
不服そうにそう口にした赤髪は、霧生をとんでもなく凶暴な目付きで睨めつけた。
この人、滅茶苦茶怖いじゃないかぁ。
赤い髪をワイルドツーブロックのクラウドモヒカンにした彼は、細く先細りの眉と釣り上がった目をしていてかなり凶暴そうな顔付きをしてる。
イケメンではあるが、不良代表だと言っても過言じゃないと思う。

「ああ。こいつ居場所無そうだしな」
「勝手に決めつけないでよ!」
霧生の口ぶりに、咄嗟に反論してしまったのは仕方がない。
確かに居場所は無いけど、さっきあったばっかりの霧生にそれを指摘されるのは侵害だ。
だいたい私はここに居座るつもりは無いんです。