「···」
何度も言うが、ここで堂々と出ていける鋼の心臓は持ち合わせてない。
さて、どうすればいいんだろう。
ドアを握ったまま半開きで部屋の様子を伺う。
霧生が副総長って事は、あとの4人は幹部なり総長なりだと言うことだよね。
ここに来て、嫌な緊張に包まれた。
よくよく考えると、野良猫の本拠地に居るんだから、会わないはずはないよね。
霧生の口車に乗ってシャワーまで浴びて、着替えまで済ませた自分が疎ましい。
でも···本当、寒いし重かったんだよ。
だから、ついつい霧生の言葉に甘えちゃったんだよね。
やたらと冷静に状況分析してる自分がおかしくなった。
笑いが浮かびそうになる口元を引き締めて押し留める。

「さぁ。おいでよ。あ、僕の貸した服似合ってるね」
考え込んでいた私の前に、いつの間にかやってきた茶髪の男の子が反対側のドアノブを握ってドアを大きく開けた。
な、なっ、何してくれてるんだ!
広くなった視界、やっぱりソファに座る人達は私を値踏みするように見ていて。
居心地悪いったらありゃしないよ〜。
「ふ、服ありがとう」
お礼はきちんと伝えておこう。
「ううん、いいよ。ほら、行こう。お風呂上がりで喉が乾いてるだろうし、ジュースをあげるよ」
なぜだか、子供扱いされた。
確かに喉は乾いてるんだけどね。
躊躇なく私の手を掴んだ茶髪君は、力任せに私を引きずり出した。
この可愛い顔のどこに、そんな力あったのよ! と心の中で叫びながら、私はドナドナされるのだった。


「さぁ、ここに座ってね」
私を空いたソファーのスペースに案内してくれた茶髪君。
霧生の隣だった事だけが、今は救いかも。
「あ、う、うん」
返事がぎこちなくなったのは申し訳ない。
でも、視線が突き刺さってるんですってば。
黒髪と赤髪から、とんでもなく鋭い視線がね。
身を小さくしてソファーに腰を下ろす。
目が合わないように俯こうとした私の耳に届いたのは、霧生の呑気な言葉。
「やっと、貞子じゃ無くなったな、神楽」
「う、煩い、霧生」
カチンと来た。
こいつは、私の緊張を分からないのかな。
霧生を睨みつける為に視線をあげ、そして気づく。
ああ···やっちまったな、と。
黒髪が再び目を丸め、赤髪は怪訝そうな目付きで私を睨ん出た。
副総長相手に呼び捨てして、タメ口だったのは、ヒジョーに不味いと思う。
せっかくお風呂に入ってさっぱりしたのに、ジトッとした汗が額に滲んだ。

「霧生の馬鹿、霧生の馬鹿、霧生の馬鹿」
3回唱え、ハタッと気づく。
不味い、頭の中で考えてたつもりなのに、口に出てたよぉ。
「お前、独り言でけぇわ」
ケラケラと笑いだした霧生。
それに釣られるようにして、黒髪と茶髪が笑い出す。
ますます身を小さくした私は恥ずかしさに顔を赤らめたまま、隣を睨みつけた。