立ち上がる動作を見せたのは、まだ歩けるという八木さんなりの抵抗だったに違いない。
けれど、それがマズかった。
「危ない!!」
足を乗せているフットサポートに体重をかけて立ち上がろうとした八木さんの体がぐらりと揺れる。
八木さんは前のめりにつんのめってバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
八木さんをかばおうとしたものの少しだけ遅かった。
肘の辺りをテーブルに強打した八木さんから「うぅ」という悲痛な声が漏れる。
「八木さん!?大丈夫ですか!?」
心臓が不快な音を立てる。
「ちょっ、八木さん!?」
騒ぎに気付いた沖さんがあたし達の元へ駆け寄ってきた。
「ごめん、梨沙ちゃん、ちょっとどいて」
あたしと入れ替わるように沖さんが八木さんに寄り添う。
「痛いっ……痛い……!」
肘を押さえて顔を歪める八木さんの状態を確認した沖さんが叫ぶ。
「あーっ、マズいな。腫れてきてる。ちょっと、看護師さん呼んで!!」
物々しい雰囲気にあたしは立ちすくんだまま身動き一つとれなかった。
八木さんにケガをさせてしまったというショックで全身が小刻みに震える。
もっとはやく八木さんを支えていたらケガをさせることはなかったかもしれない。
あたしのせいだ。
息苦しくなり、胸がつまる。
過呼吸寸前の状況。
胸を押さえて顔を歪めながらふと薫子に視線を向けた。
でも、こんな状況を招いたきっかけを作った薫子は椅子に座ったまま涼しい顔で悠然と高みの見物かのように八木さんを見下ろしていた。



