肩を叩いてきたのは薫子だった。

「アンタ……どうしてこんな朝早く体育館にいたの?」

「エレナのことを知って彩乃のことが心配になったのよ。ほら、昨日彩乃……エレナに相当ご立腹だったじゃない?」

薫子とともに体育館の外の階段に腰かける。

部員たちは練習どころではないし、あたしがいなくても問題はないだろう。

「うん……」

あたしは昨日、薫子に呼び止められてある話を聞かされた。

本当は薫子と話すのも一緒にいるのも嫌だった。

でも、その話は誰にも話したことがないことだった。

だから、気になって話を聞いてしまった。

今になって後悔の念が押し寄せてくる。

エレナがあたしにメッセージを送ってきた時間には男とホテルにいたんだろうか。

その男と一緒に二人で練炭自殺を図ろうとした……?

いや、それはない。エレナは母親のことを大切に思っていたし、大好きな母親を残して命を断とうとなんてしないはずだ。

だとしたら、男に無理矢理……?

意識は……?ケガはしていないんだろうか。

もしも。あたしが送ったメッセージがエレナの意識があった中でみた最後だったとしたら?

どんな気持ちになったんだろう。

指先が震えた。自分がとんでもないことをやらかしてしまったような気がする。

「パパ活なんてやっているから罰が当たったのよ。彩乃は何も悪くないわ」

「それはそうだけど……。あたし、昨日薫子に色々聞かされて……エレナに酷いメッセージ送っちゃったの」

「そうなの?どれ?見せてくれない?」

薫子にスマホを手渡す。

あたしは薫子が大っ嫌いだった。

空気も読めないし、しつこいし、人の気持ち考えずにグイグイくるし、自己中で、嘘つき。


でも、そんな女にすらすがりついてしまいそうなほど、今のあたしはエレナのことに動揺してしまっていた。