「……高橋さんはさ、なんで絵描くの」
慎重で静かな、やさしい口調だった。
「うーん、なんでかなあ。そう、だなあ……」
ゆっくりゆっくり言葉を探す。好きだからなんて簡単にも言えたけど、それじゃあ嘘じゃないけど充分でもない。
彼もわたしも傷つかない言葉を懸命に探して、なんとか口を開く。
「わたしはさ、明日いなくなるかもしれないじゃない? 今いなくなるかもしれないし」
「うん」
「だから、懐かしいものを描いておきたいの。わたしが忘れないように描いておきたい。わたしが忘れられないように描いておきたいなって」
だって。
「わたしが消えても、生きていないわたしの絵はきっと、地球が滅びるその日まで、どこかで残るでしょう」
そっか、と頷いた渡辺くんは、「じゃあ、小さいキャンバスにしなよ」と言葉を選んで言った。
「なんで?」
「小さかったらきっと、どんなに困窮しても、そんなにすぐには売り払われないから」
ごめん、失礼なこと言うけど、と前置いて。
「きっと、その絵を手放すときって、絵の素敵さよりは、キャンバスか絵の具の方に価値が見込まれると思うんだよ。小さければそのぶん絵の具少なくて済むし、俺がそれだけ持って逃げられるかもしれないし、終わりまで、どこかに隠しておけるかもしれないしさ」
ひゅうと息を呑んだのは、バレていないだろうか。じわり、何かが胸のうちを迫り上がる。
慎重で静かな、やさしい口調だった。
「うーん、なんでかなあ。そう、だなあ……」
ゆっくりゆっくり言葉を探す。好きだからなんて簡単にも言えたけど、それじゃあ嘘じゃないけど充分でもない。
彼もわたしも傷つかない言葉を懸命に探して、なんとか口を開く。
「わたしはさ、明日いなくなるかもしれないじゃない? 今いなくなるかもしれないし」
「うん」
「だから、懐かしいものを描いておきたいの。わたしが忘れないように描いておきたい。わたしが忘れられないように描いておきたいなって」
だって。
「わたしが消えても、生きていないわたしの絵はきっと、地球が滅びるその日まで、どこかで残るでしょう」
そっか、と頷いた渡辺くんは、「じゃあ、小さいキャンバスにしなよ」と言葉を選んで言った。
「なんで?」
「小さかったらきっと、どんなに困窮しても、そんなにすぐには売り払われないから」
ごめん、失礼なこと言うけど、と前置いて。
「きっと、その絵を手放すときって、絵の素敵さよりは、キャンバスか絵の具の方に価値が見込まれると思うんだよ。小さければそのぶん絵の具少なくて済むし、俺がそれだけ持って逃げられるかもしれないし、終わりまで、どこかに隠しておけるかもしれないしさ」
ひゅうと息を呑んだのは、バレていないだろうか。じわり、何かが胸のうちを迫り上がる。


