視線を外した渡辺くんが、ぽつりと呟く。


「じゃあさ、……何になると思う?」


主語なんて指定がなくてもわかりきっている。今の問いかけは、死ぬときは何になると思う? という意味だ。


儚く消えるのは、うつくしさと同じ意味を持たない。


たとえば、わたしは蝶々が好きだから、最期は蝶々になれたら嬉しいし、綺麗だとも思う。うつくしさに満足して儚く消えるだろう。

でも、蝶々が嫌いな人から見れば、それは理想の最期ではないのだ。


「わたしはなんだろう、きれいな花になりたい。それか星がいい。星なら地球を照らせるかもしれないでしょ」

「俺は水がいい。水ならさ、川になって流れるかもしれないし、雨になって戻って来られるかもしれないじゃん」

「天才だ」

「だろ」


戻ってきたいな、と思った。


消えて、また人間になったひとはいない。


漆を飲んだり絶食したりしてなんとかミイラになって人間の形を保とうとしたひともいたけど、結局ミイラになれずに、枯れかけのトルコキキョウになったと聞いている。

だから、人間のままでいるのは多分無理なんだろう。


でももし生まれ変われるなら、また人間になりたいし、人間は無理でも、何か戻って来られるものになって、ここに戻ってきたい。そうしてもう一度、きみに会いたい。


「わたしも水になりたいなあ」

「な、水がいいよなー」


うん、と言った。彼もうんと頷いた。


わたしたちはまだ人間だった。