明日も分からない状況でわたしが何をしているかというと、学校に通っている。


うちにこもっていてもすることがない。高校生で働いてないからご飯もひと苦労だけど、学校には非常食があるし、手当も受けられるし。

何より、家にひとりきりだと、遺品を眺めてどうにかなってしまいそうだったので。


こんな状況だからこそ、記号めいた制服を着て高校生でいた方が、まだ気楽だったのだ。


教室で残っているのはわたしともうひとりだけになってしまった。


「……おはよ、高橋」

「おはよう、渡辺くん」


わたしは高橋明日香。彼は渡辺飛鳥くん。


お互いに名字で呼ばないと音が同じなので、分かりやすいように名字で呼ばれていた。ふたりきりになってしまってからも、そのまま名字で呼び続けている。


今日は渡辺くんが角の席を陣取っているので、わたしも対角線上の角の席に荷物をひっかけた。


特に何が入っているわけでもない鞄はとても軽い。教科書なんて使わないし、勉強してもロクな大学や就職先が見つかるわけじゃないし、ふたりでのんびりするのが常。


今一番人気の職業は、ものづくりをする人だ。なんでも屋というか。


ものづくりをする人たちのコミュニティに属していると、物々交換やお金でのお支払いがとてもスムーズにいく。


生活に役立つ技術や能力を持っている人は、それだけで生きていける。


「どうなるんだろうね」


なりたい職業は見つからない、なんて——まるで、かつてこの世界が普通に機能していた頃みたいな悩み。