ぽつりぽつりと友人が消えた。家族が消えた。


あまりにも身近になって、もう誰も、自分の知っている誰かがうつくしくいなくなるこの恐ろしい現象を、面白おかしく消費することはできなくなった。


原因はいまだに解明されていない。


各国が必死に莫大な費用の投資を約束していることもあって、少しずつ、専門的に研究しようとするひとが出始めている。


でも、充分な研究がされる前に、あるいは研究結果の引き継ぎが終わる前に、その専門家こそが、花として、光として、各々うつくしいものとしていなくなっていった。


今のところ確かに分かっているのは、知り合いの最期に影響されて研究を始めるひとが多いからか、家族や友人や職場の人の最期によく似た最期を迎えるひとが多いという統計だけだ。


……ある日、夜遅くに帰ったら、その時間ならいつもはいるはずの母がいなくて、食卓の母が座る席に、大ぶりの季節外れなハイビスカスが落ちていた。

綺麗な赤い色をした、間違いなく母が好きな花だった。


ある日、父がいつも出勤しているはずの時間に、まだ庭の片隅に父の車が置いてあった。

おかしいなって車の中を覗いたら、運転席には、火がついていない真新しい煙草が一本残っていた。


——隣の誰かが亡くなり、近所は静まり返り、犬や猫が消え、花が枯れた。


誰もがうつくしく消えた。


人類は、地球は、緩やかに滅びに向かっていた。