彼氏がいることは知っていた。


俺はいつしか買い物の付き添いに呼ばれなくなった。あいつはうちで遊ばなくなった。


二人きりじゃなくて大人数で出かけたときでさえ、俺の隣じゃなくて女子の隣を歩くようになった。


飲み会のたびに、この酒の勢いに任せて言おうかと思って、毎回別の話題を振った。


『それ恋人のでしょ? 私と君は恋人じゃないんだから別に何センチ差でもいいじゃん』


恋人じゃないんだから、じゃなくて、友達なんだから、とは言ってくれない彼女に、俺たちの関係に名前をつけたくなさそうなあいつに、好きだなんて言えなかった。


もう「やばいからレポート見せて」なんてバカな連絡さえ、してはいけないのだと思った。


彼氏がどんな奴かは頑なに聞かないまま、ぐるぐる年が過ぎて。


誕生日だけ、お互いぽつぽつとお祝いの言葉を送って。

ここ最近の履歴は「久しぶり。誕生日おめでとう」と「久しぶり! ありがとう」しかない。


そうして電話がきたと思ったら、結婚の報告と、ブーケトスの話だった。


……ずっと、いつか、と思っていた。


いつか、言えたら。

いつか、誘えたら。


——そう思っているうちに言えなくなって、今度はいつか諦めようになった。


いつか、忘れよう。

いつか、手放そう。


いつか、そう、きっといつか、笑っておめでとうって。