何も返さなかったら、さらに続けてきた。
私が怒ってると思ったらしい。


もう見るのも嫌で、スマホを鞄に戻す。


一年近くにいたと言っても、ただ同じクラスだっただけで、関わりが浅かったから、今までこんなふうに苛立つことがなかったのかもしれない。
だから、ずっと好きだったのかもしれない。


ちょっと嫌なところも受け入れられると思っていたけど、さすがにこれは無理だ。


でも、これくらいの嫌なことで忘れたり諦めたりできるなら、こんなに苦労してない。


「……私、どうしたらいいのかな」


少しずつ天形への気持ちが冷めているのはわかるけど、聖のことを好きかって言われたら、わからない。
答えが見つけられなくて、近江君に助けを求めてしまった。


「それは矢野君と付き合うかどうかってこと?」


小さく頷く。


「天形……初恋相手を忘れるために、聖を利用してもいいのかなって……」
「いいんじゃない?矢野君本人が利用してって言ってたんだから」


……そこまで知ってると、実際に見てたんじゃないかって思えてくる。
かなり丁寧な噂が流れたものだ。


「それに、楽しいことで嫌なことを忘れるのは一つの手だよ」


近江君も沙奈ちゃんも、同じようなことを言う。
やっぱり、そうなんだろうなと思う。


「近江君、話聞いてくれてありがとう」


私は教室に戻り、聖に返事をした。