助かった。


「矢野?なんで……」
「学校帰りだよ。そっちは……デート?」


聖が聞くと、茶髪の彼女が天形の腕に抱き着いた。


「そうだよ。もしかして私たちの邪魔しに来たの?」
「泉、少し黙って。二人は中学の友達だから」


天形はそっと彼女の手を下ろす。


胸が痛んだ。
私は一度だって、名前を呼ばれたことがないのに。


「ごめんな、天形。邪魔したみたいで。ひなた、帰ろう」


聖は何もできない私の体の向きを変えると、背中を押した。
全身に力が入らない私は、その聖の力で進んでいく。


すると、誰かに腕を掴まれた。


「おい天形。それは違うんじゃねーの」


それは天形だった。
聖に言われて、天形は手を離す。


背後に聖が立っていたから、天形がどんな表情をしていたのか知ることができなかった。
知りたかったけど、今彼の顔を見ないほうがいいと思った。


「……帰るぞ」


怒りのこもった声に、私が怯えてしまった。
そしてそのまま、私たちは天形と別れた。


「ひ、ひなた……大丈夫……?」


沙奈ちゃんたちと合流すると、さっそく心配された。
あんな場面を見られて、心配かけないわけない。


だけど、無理して大丈夫だと言うこともできなかった。