近江君をからかうのが飽きたのか、沙奈ちゃんは思い出したように聞いてきた。
だけど、その質問に私も聖も口を閉じる。


「私……聞いちゃダメなこと聞いた?」
「ううん、そんなことないよ」


いつの間にか私の後ろに立っていた夏希が答えた。


「バイト中だろ」
「休憩もらったんですー」


聖と言い合いをする夏希に押され、一つの椅子に二人で座る。


「何さんと何さん?」
「有川沙奈です」
「近江嵐士(あらし)


二人の名前を聞いて、隣の夏希は意味もなく頷いている。


「嵐士ってかっこいい名前だね。見た目も私好み。んー……だけど、ひなたは渡せないなあ」


夏希は笑いながら言うと、私が食べようとしたアイスを横取りした。


「ちょっと、食べないでよ。ていうか、渡せないってなに言ってるの」
「だって、ひなたは私のお姉ちゃんになるんだよ?」


夏希は人の目があるというのに、必要以上に近づいてきた。


……ダメだ、何言っても聞かないやつだ。


「夏希、場所考えろ。あと、勝手な妄想もやめろ」
「はいはい。ごめんね、ひーくん」


語尾にハートでもついているかのような、バカにした言い方。
おまけとして、聖のほうを向いて舌を出した。


本当、仲がいいのやら悪いのやら。


「夏希さんっていい性格してますね」


沙奈ちゃんは感心しているようだった。