そこにいたのは自分──の姿を、投影したもの。


壁一面が鏡に覆われていた。
どこを向いても、自分と響平の姿が映っている。


1歩進んだだけで、どっちへ向かったらいいのか、自分が今どの位置に立っているのか、瞬く間にわからなくなる。

私はここに存在しているはずなのに、鏡の世界に呑みこまれて、本物の自分さえ見失いそうだった。



「すごい。遊園地のミラーハウスみたい! いいもの見せてやるって、これのこと……?」



無意識のうちに響平の上着のすそをつかんでいた。


「はあ? ちげーよ」

呆れたように返される。


「これはー、侵入者がもしここまで来ても簡単に中に入らせないための、ただのセキュリティみたいなやつ」

「……、へえ?」


「侵入者がこのエリアに入ってきた時点で、まず建物全体にサイレンが鳴る。ミラーハウスって脱出するのにけっこう時間かかるだろ? だから、侵入者がこの鏡張りの中であたふたしてるうちに、このビルの人間が駆けつけてそいつを捕らえるって仕組みだ」

「はあ、なるほど……」