振り向いた先に、黒い人影があった。
──誰?
──いつの間に?
緊張が不安に切り替わった。
「こんなところにいたのか。響平君」
隣で息をのむ気配がして、只事じゃないことを悟った。
響平が私を隠すように前に立つ。
相手の姿は見えないけれど、さびを帯びた声から年上の男性だとわかる。
穏やかな口調の中にぞくりとする冷たさがあった。
「最近、また脱走するようになったかと思っていれば、外に女ができたそうじゃないか」
影が一歩ずつ詰め寄ってくる。
響平は何も言わない。
ここからだと顔も見えない。
「自分が外に出ることが、どれだけの危険を伴っているかわかってるのかい? ……響平君」
相手は煽るように低い声で名前を呼んだ。
響平は黙ったまま相手に近づいた。
その直後、バンッ、と短い爆発音が響いた。
いったいなんの音なのか、判断する暇もなく響平が
足元から崩れ落ちる──。
景色が、やけにゆっくりと流れた。



