都合のいい考えだと思いながら相手を見上げる。

男たちは声も上げず、たじろぐばかり。



「ちゃんと顔覚えといて。そんで、周りのやつにも伝えといてくれると助かるわ。この女に手ぇ出したら殺すぞって」



私の肩にそっと手を回してくる。


不思議といやな感じはしなかった。

殺すぞ、なんて不穏なことばを吐いているのに。
この街に、いい人なんていないはずなのに。


驚くことに、彼に触れられてどこか安心している自分もいる。


「すみません! 夕立さんの彼女だとは知らず……っ」


ひきつった声を出しながら、男たちが頭を下げる。

ペコペコと何回も首を動かし、それがひどく滑稽に見えた。



しばらく無言で見ていた彼は、ふいに私から手を離し。

突然──ひとりの男の腹部を蹴り上げた。


低い唸り声を上げ、苦しそうにお腹を抱えた相手を見て吐き捨てる。




「人に頭下げるときはその角度な。……次はねぇぞ」


まるで見せしめのように。

男たちは震え上がり、地面につきそうなほど頭を下げて、“ユウダチ”と呼ばれる男に恐怖していた。