──“あの人”。


名前も知らない人物を想像して、どうしてかゾッと寒気が襲ってきた。



泉くんの表情は暗い。



「成人を迎えたら、外に出れるようになるの?」

「…………」



ひどく悲しい目を向けられた。



「響平だけは、死ぬまで自由になれないかもしれない」



胸がざわっと騒ぐ。


……どういうこと?


立ち尽くす私たちに、正解は与えてもらえなかった。



「ロクでもない男だけどね。響平には幸せになってほしいなあ」



ひとり言のようにつぶやいて、泉くんは背を向ける。

雨と闇の中に吸いこまれるように見えなくなる。