ここは治安の悪い街。

怒鳴られるかもしれないと思い、すぐさま頭を下げる。



「すみません……っ」

「ああ。こっちこそよそ見してて……」



返ってきたのは、知ってる声。

顔を上げると、相手も同じことを思ったらしく視線がぶつかった。



「あれ、瑠花ちゃん」


目を丸くしたのは泉くんだった。


「え? 響平と一緒じゃなかったの?」

「泉くんこそ、倉庫にいたんじゃなかったの?」


「それがさー、響平のやつ、いつもと違う煙草買ってきやがったの。だから買い直しに」

「そうだったんだ」

「てか瑠花ちゃんたちもう帰んの? 響平と一緒にいなくていーの? 彼女なんだし、今日も泊っていけば?」



響平とはさっき別れたし。


たぶん──もう、会うことはないと思う。



「あのね、私。ほんとは響平の彼女じゃないんだ……」

「えっ?」

「前に、ここで怖い人に絡まれたときに、彼女だって嘘をついて守ってくれただけなの。……だから、ここに来るのも、もう終わりにする。今までありがとう」