「もう、街には来んな」


涙が頬を伝う。


足にうまく力が入らなくて、それでも、ここから離れなくてはいけないという思いで一歩退き。


視界が滲みながらも足は止めなかった。



「旗中!」
「瑠花ちゃん……っ」


とても顔を向けられる状態じゃない。

みんなで遊んでた部屋を通り過ぎて、階段を駆け下りる。



「風邪引くよ」


私の肩を濡らしていた雨がふいに止んだかと思えば、いつのまにか国吉くんが、傘をこちらに傾けていて。


国吉くんはクラスの人気者。

いつも中心にいて、明るくて、キラキラしてる。

女の子に言い寄られているところを見るのも少なくなくて、きっと慣れているんだろうなと思っていた。



「国吉くんって、いつも私に優しくしてくれるよね」

「……まあ、そりゃあ、好きな子にはね」

「……へ、」



雨を弾く傘の下で、思わず息が止まった。


ゆっくりと瞬きをする。


「俺はずっと旗中のことが好きだよ」


街の光が雨のせいで幻想的に映り、どこか現実味がない。
ぼんやりと、夢の中にいるような心地がした。