椿くん、泉くんの弟。
私が頷いたのを確認すると背を向けた。
──すると。
「待って、きょうくん。私も一緒に行ってもいい?」
美月ちゃんが響平の腕をつかんで。
「ふたりで話したいこともあって……」
長い睫毛を伏せたあと、上目遣いで響平を見つめる。
私の心臓は冷たく音を鳴らす。
「つっても俺、すぐそこに泉の煙草買いに行くだけだぞ」
「いいよ。きょうくんと歩きたいの」
「傘、1本しかねぇよ?」
「一緒に入ればいいじゃん。……だめ?」
「わかった。じゃあ行くか」
迷う素振りもみせず、あっさりと。
もちろん、私のほうなんか見もせずに。
扉の閉まる音が胸をぎゅっと締め付けた。