「あいつは、──」


ためらように言葉が切られた。


「響平が……なに?」


言いかけて止められるのが一番もどかしい。



「いや……。やっぱり旗中は知らないほうがいいかも」

「なんで? 知りたいよ……」

「……、昔から黒い噂が絶えない街だ。闇組織の本部もあるし、そこは労働力として子どもを買ってるっていう話も聞く。暗黒街に住む人間に、まっとうなやつはいない」



響平のことなら、何でも知りたい。


先を急かすつもりで見上げてみても、国吉くんの口元は固く結ばれたまま。

そうしているうちに街を抜けて、寮の近くの見慣れた交差点に出た。



渡る道の信号が点滅して、間もなく赤に変わる。



「……いるはずのない人間」


国吉くんが突然、ひとり言みたいにそう言った。


それがさっきの続きだと理解するまで、しばらくかかった。



「夕立響平は、この世に、いるはずのない人間」