「別に。お前が引き止めてほしそうな顔してたから」


さらりとそんなことを言う。


そんなの嘘。
口から出任せ。 

だって別れ際、目が合ったのなんて、ほんの一瞬だったのに。



「私そんな顔、してないよ……っ」

「ふうん?」

「見えてなかったくせに、テキトウなこと言わないで」

「じゃあ、なんて言ってほしいわけ」


距離を詰められて肩が当たり。

それから間もなく、響平の唇が耳元に近づいてきた。



「“クニヨシ君のとこに、行かせたくなかったから”」

「……っ」

「……とか?」


やけに色っぽい声が鼓膜を揺らす。

少女漫画にありがちなセリフをなぞっているだけなのに、どうしようもなく胸が高鳴る。


「“瑠花は俺のものだろ”」


軽く笑いを含んだ声。

からかっているのが丸わかり。


「どこで覚えてくるの、そんなセリフ」


流されたくなくて、冷静なふりをした。