「ゆ、悠理ちゃん…。」
未央奈は悠理を見つめて、
「遥香の代わりに謝ります…。
悠理ちゃんを傷付けて…ごめんなさい…。」
と、頭を下げた。

「未央奈さん…。」
悠理は未央奈を見つめた。

未央奈は、頭を下げたままだった。

「遥香…。」
悠理は声を震わせながら、
「私…怒ってなんて…いないよ…。」
と呟いた。

未央奈の姿に、遥香の姿を重ね合わているようだった…。

「え?」
未央奈は悠理を見た。

「私の方こそ…ごめんなさい…。
遥香の身体の事…何も知らなくて…。」
と、頭を下げた。

「悠理ちゃんは、悪くないよ…。」
と、未央奈が言った。

「……。」
悠理は黙って首を横に振ってから、
「私…何も…気付いてあげられなかった…。
ごめんね…。
ごめんね…。
遥香…。」
と、泣きながら言った。

「みなみさん…。」
と、悠理はみなみを見た。

「どうしたの?」
みなみも悠理を見る。

「守秘義務みたいなのがあるから、答えられないかも知れませんけど…。」
悠理は少し間を置いて、
「手術のあとぐらいから、遥香も色々と忙しいと言って、遥香と予定が合わなかったのって、術後の経過が良くなかったんですか?」
と訊いた。

「手術は成功したわ。」
みなみは悠理を見て、
「術後の検査とか色々あったからよ。」
と答えた。

「あと…。」
今度は未央奈が、
「薬の関係で、顔がむくんだり、げっそりしたりしたから、悠理ちゃんに見られたくなかったみたい…。」
と答えた。

「は、遥香…。」
悠理は、呟くように言った。

「私と…。
私なんかと…」
悠理は声を震わせながら、
「友達になってくれて…ありがとう…。
遥香の…。
遥香の…お陰で…。
私は…前向きになれた…。
ありがとう…。
そして…ごめんね。
ごめんね…。」
と泣いた。

悠理、未央奈、みなみ…。
三人共、遥香の思い出を抱いて泣いた…。


《プルルルル》
悠理の携帯電話が鳴る。

「もしもし…。」
悠理は電話に出た。

『もしもし、悠理ちゃん。』
と、電話の相手━━綾乃は言った。

「綾乃ちゃん、どうしたの?」
と、悠理は訊いた。

『ちゃんと起きてるかなって思って…。』
と、綾乃が言った。

「うん、大丈夫だよ。」
と、悠理は答えた。

『……。』
綾乃は黙っていた。

「綾乃ちゃん、どうしたの?」
悠理が訊いた。

『一年半も一緒にいたから、何だか寂しくて…。』
と、綾乃は言った。

「じゃあ、ゴールデンウィークになったら、遊びに行ってもいい?」
と、悠理は訊いた。

『勿論よ、休み取れるように調整するね。』
と、綾乃は答えた。

「ありがとう、綾乃ちゃん…。」
と、悠理は言った。

『な、何よ…。
急に改まって…。』
綾乃が言った。

「あの日、私を栃木に呼んでくれて…。
ありがとう…。
綾乃ちゃんが、栃木に呼んでくれたから、
私は、大切なモノを取り戻せた…。
大切な友達が出来た…。
本当に…ありがとう。」
と、悠理は言った。

悠理の頬を涙が伝った。

『わ、私は…何も…してないよ…。』
と、綾乃は照れ臭そうに言った。

綾乃の頬にも涙が伝った。

「そろそろ行くね。」
と、悠理が言った。

『うん、気を付けて行ってらっしゃい。』
と、綾乃が言った。

悠理は電話を切った。

━━2020年4月。
大阪市内にある、悠理が借りているアパート。
悠理は大阪の大学に通う為、綾乃のアパートを出て、大阪で一人暮らしを始めた。

━━今日は、大学の入学式。

「遥香…行って来ます。」
と、壁に飾ってある絵に声を掛けた…。