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路地裏を大音響で走りまわる暴走族に、住民はほとほと困り果てていた。例によって、モータバイクの大音響が路地裏に轟く中、業を煮やした数人のUFOマニアが、一計を案じた。なにやら怪しい呪文を唱えて間もなく、爆音が住宅街から消えた。翌日、南米アマゾンで、暴走族数十人の圧死体が見つかった。

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「遂にサタン・マシーンの完成か」「有難うございます」「どのようにサーバに接続するのかね?」「タキオン・ビームを使用しマトリックスに繋ぎます」「マトリックスとは?」「アカシック・レコードです」「ふむ、よく分からんが接続してみてくれ」「はい」「どうした!」「しゅ、終末が到来しました」

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手相を見たがるノダに、マユムラは営業成績を上げたいばかりに承諾した。ノダは掌を仔細に眺め、「恐ろしい体験をする」と云ったきり口を閉ざしてしまった。マユムラは翌日、事故車の中から炭化したノダの死体が……との報道に驚いた。ノダはマユムラの掌に、己れの投影した手相を読み取ったのだった。

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映画ファンの児島貴明は仕事を終え、映画館に向かった。すでに、大勢が舗道を同一方向に向かって歩いている。やはり映画鑑賞なのか。前を行く若いカップルの歩く姿が一瞬ゆらぎ、忽然と消えた。それから、立て続けに通行人が消えて行った。児島は誰もいない映画館で独り、映画『人類消滅』を堪能した。

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壱川は強かに酔い、気づいたら段数を算えながら階段を上がっていた。13段目の最上段でカーテンを開け、一歩踏み出した。あまりの眩しさに宿酔いの気分を催しながら見渡せば、スポットライトが強烈な光を放っている。その時ステージ上の彼に、誰もいない観客席から一斉に拍手が轟き、歓声が上がった。

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深夜、倉石は飲酒しながらネット上をぶらつき、珍しい動画を発見、早速再生してみた。UFOが彼に向かって接近、画面から溢れそうになり、それでも接近してくる。画面から六本指の手が出てきて、傍にある冷酒の入ったグラスを鷲掴みにして、引っ込んだ。それで満足したか、UFOは遠ざかって行った。

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西暦2133年、画期的なメディアと再生機が登場した。メーカーの触れ込みによれば網膜から入ってくる微弱なプラズマを通じ、活字の描く世界で恰も活動しているかのような体験を味わえると云う。発売1日目にして獣に変身する住人が出現、瞬く間に世界中に獣が溢れ返えった。その数133億頭だった。

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交差点の一方に、赤信号を不安そうに視つめる若い主婦、他方に、母親を見つけ信号を無視して横断歩道を駆ける男の子がいた。そこへ猛スピードで車が進入してくる。母親の悲鳴は爆音に掻き消え、子供の耳には届かない。間髪を措かず巨大なUFOが出現、子供は宙を舞って何事も無く母親の許に着地した。

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招待状を手にしたカップルが試写会に詰めかけ、見知った同士挨拶を交わしながら着席、上映を待つことになった。幕が上がり何も映っていないスクリーンが現れ、やがて観客席にざわめきが広がった。スクリーン上に隣席の人物が1人、2人……暫くしてスクリーン上に全員登場し新方式の試写会が始まった。

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最新鋭機に乗り込むテストパイロットの阿修羅大佐は、キャノピーを閉じ、見守る軍関係者に敬礼した。空軍の誇る戦闘機が一瞬半透明化し大気が揺ぎ、直後に大佐が操縦席から地上に降りてきた。ヘルメットを取った大佐の顔を観た面々の間に恐怖が広がり、絶叫が上がった。大佐はドラゴンに変貌していた。

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久我山は、急峻な岩山を登り始めて間もなく、厚い霧が垂れ込め、気温が上がるのに気づいた。体温が上がるのは当然としても、まるで真夏のよな暑さだ。頭が固いものに打つかり、金属音を立てた。次第に霧が晴れ、巨大なUFOが音もなく遠ざかって行くのを目撃した彼は、その場にへたり込んでしまった。

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究極のレーダーを搭載した複座型戦闘機が防衛任務につくため飛び立った。5分たらずで地球周回軌道に到達、レーダーで前方をスイープし始めて間もなく、二人の搭乗員はディスプレイの映像を目にして驚いた。天使が前を横切り、二人に向かって手を振ったのだ。一瞬後、戦闘機は基地滑走路に戻っていた。

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新型単座戦闘機に乗り込んだ中佐の小早川 は、ビルディングの屋上から離陸、巡航速度マッハ7で北極を目指した。やがて、大小の氷山が現れ、その中に巧妙にカムフラージュした母艦が浮いていた。中佐は手際よく戦闘機を操り、母艦内部に降下して行った。数人のエイリアンが、小走りに駆けつけてきた。

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ヒノ国は絶対平和を宣言し核兵器および航空母艦を廃棄、さらに防衛主体の通常型戦闘機を配備し終えた。それを待っていたかのように、隣国が旋角諸島、武洲を侵略し始めた。大国が核兵器を搭載したミサイルをヒノ国に向けて放ったが、ミサイルは悉く消滅、数秒後に放った国が灼熱の海になってしまった。

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発明狂の蝋山はある荒唐無稽な小説に発想を得た、頭脳の電気信号を操縦桿から各システムに伝える、航空機のテスト飛行に飛び立った。プラズマエンジンを搭載した画期的な発明だ。上々な試験飛行に気を好くした彼は眼下の空き地に着陸した。その直後、彼の試作機ごと空き地がゆっくり空中に浮き始めた。

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山高帽を被った紳士風の男がヤマギワ刑事の眼前を横切り、角を曲って見えなくなった。尾行を始めて以来、まったく正体の掴めない怪しい人物だった。今度こそ突き止めてみせる――そう自分に云い聞かせ、彼は素早く追った。角を曲がったその時、ピラミッド型の建物が音も立てずに宙に浮き夜空に消えた。

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澤本はカフェで珈琲を飲みながらノートPCを起動した。数秒後、マウスポインタが勝手に動き始め、その中に妙なことに……フラつきながら彼に向かってきて見る間に大きくなり、ディスプレイから跳び出してきたのだ。次の瞬間、周囲の空気が揺らぎ、壁の中に消えた。それは半透明の天使の姿をしていた。

78
長身の人間離れした男が、赤い衣装に赤い帽子を身に着け、家路を急ぐ通行人に耳慣れない言語で語りかけている。通行人の何人かは理解できるのか、立ち止まって聞いていた。その中に件のサンタクロース氏の身体が浮き始め、驚いて見上げる通行人の視界から掻き消えた。舗道に一枚の大きな羽根を残して。

79
野島の眼前に地図にない急峻な山が立ちはだかっていた。数時間ついやして頂上に到達、苔むした岩石に腰掛け喫煙する。煙を吐き出し背筋を伸ばしかけたその時、背後から一陣の風が吹いてきて彼の手から煙草をもぎ取った。煙草はそのまま宙を舞い、恰も手品師の掌から消えるかのように空中で掻き消えた。

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戦争反対の平和主義者にして戦記物を好む登山愛好家4人が、遠くにある奇妙な山を目指して黙々と歩む姿は、まるで敵地を偵察する斥候隊の行進のようだ。強行軍の甲斐あり、剣先鋭く佇立する山が直ぐ目の前に迫りつつある中、4人揃って見上げると同時に、山が音もなく浮き上がり東の方へと消え去った。

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「久しぶりだな。何処へ行ってた」「火星から戻ったばかりだ」「おいおい冗談がキツ過ぎやしないか」「本当だとも、エイリアンとは友人同士だ」「いい加減にしろよ。そんなヨタ、誰が信じるもんか」「紹介するよ、ナンバー9だ」「何処にいる?」「そうだろうとも」「……」「信じる信じないは自由だ」

82
川島は、書棚の奥に蔵い込んであったラップトップPCを引っ張り出し、面白半分にコンセントに繋いで起動してみた。画面に此方を観察している顔が……よく見ると川島にソックリの顔つきだ。驚く暇もなく川島似と入れ替わりにグレイタイプのエイリアンが出現、手を挙げて頷いて見せ画面から消え去った。

83
誰かが随いてくるよう手招きした。他の通行人は見えないのか素知らぬ顔で去って行く。吉田は、頭に角を生やし背中に羽根をつけた「存在」の後を追い、丘に辿り着いた。ひっそりと立つ慰霊碑に、「吉田浩一 1941―2015」とあった。それは、吉田自身の名前だった。彼の姿は次第に薄れ、消えた。

84
棚橋は、書棚からユングの著書を取り出し、頁を捲っていた。挟んでおいた栞がハラリと床に落ち直立――見ていると、彼の眼前でその栞が浮き上がり宙を漂い始めた。急いで、ヴェランダに出て見上げる彼の頭上に、巨大なUFOが音もなく浮いているのが見える。彼が手を振ったら、船体を揺すって応えた。

85
埴谷は歓楽街で酒を呑み、上機嫌で酒場を後にした。外は息をするのも困難なほどの猛吹雪――風を避けながら歩く彼の足音に別の足音が重なるように路上に反響する。街灯を目にしてホッとしたのも束の間、彼は驚きの声を上げた。髪振り乱し、今にも掴みかかってくるかに見える影が路上に映っていたのだ。

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2階の自室でゲームに明け暮れる息子が、凄まじい悲鳴を上げた。1階の居間にいた母親は飛び上がって驚き、父親は口に咥えていたパイプを床に落とした。二人で恐る恐る階段を上がり、息子の部屋に入って行く。両親は、驚きの余りその場にへたり込んでしまった。一粒種の愛息子は硬直し、息絶えていた。

87
見覚えのある街に辿りつけず、加山は車を飛ばしながら不安を感じていた。道行く人に尋ねようにも、通行人はおろか野生動物も通らない。焦りと恐怖から全身が震えた。陽が沈み始め、なんとか見慣れた標識にぶち当たりホッとしたのも束の間、半日以上前に目撃した標識なのに気づき、恐怖は頂点に達した。

88
呑み歩いて終電に乗り遅れた石母田は、あまりの寒さに目を醒ました。明け方なのに気づき見渡せば、同一方向に急ぐ人々がいる。彼はベンチを離れ、後から随いて行った。彼らは、行き止まりの壁の中に次々と消え去る。壁に手をかけて身体を引き上げ、見下ろした彼の眼前に墓地が果てしなく拡がっていた。

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夕暮れ時、河本は裏通りをぶらつき、骨董店を見つけた。店内に、異様な置物が積み上げてあり、棚には薬草の類かと思われる植物の入った小瓶が無数に載っている。一つの小瓶を取り出し、蓋を開けて嗅いでみた。臭気が鼻を刺激し、気づいたら見知らぬ街角に独り佇む自分を発見、彼はその場に凍りついた。

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小田嶋は歓楽街を彷徨い、梯子酒した挙句に、会社の同僚とはぐれた。かなり酔ってはいたが呑み足りず、雑居ビル地下1階のうら寂しい酒場に入る。カウンターに寄り掛かり、ウイスキーを煽ってふと見渡せば、他に誰も乗っていない終電車の座席に独り座っている己れに気づき、酔いがけし飛んでしまった。