「佐々木くん?」

どういう意味?

からかってる?

アラサーの草臥れた顔を見てもなんの得もないと思うけど…。

佐々木くんの言葉の意図が掴めない。

「俺、好きなんです。」

「す、き?その眼鏡が?」

まぁ、伊達とは言えそれなりのブランド物だけど…

「それ遠回しに俺の事、振ってます?」

自嘲気味に笑う佐々木くん。

ふんわりと軽くウェーブの掛かった髪がよく似合う甘いマスク。

その若さといいまるでアイドルのような佐々木くん。

いや、実際、社内での人気もアイドル並みだ。

その佐々木くんを私が振る?

「えっと、言ってる意味がよく分からなくて…」

「じゃあ、もう一度言いますね。俺、先輩のことが好きです。入社してからずっと。」

入社してからずっと?

それ、本当なの?

「佐々木くん…」

急な事でなんと答えればいいのかわからない。

「俺じゃ…駄目ですか?」

「駄目…って…」

そりゃ、私、社内でも人気の佐々木くんにこんな風に言ってもらえるなんて嬉しいけれど……だけど、

「私、佐々木くんより年上だし…4つも。」

こればかりはなんともならない現実。例え伊達眼鏡を掛けても嫌でも突きつけられてしまう。

「だから?」

「いや、だから?って言われても、ねぇ?それに先月、別れたばかりだからそんな直ぐには…」

「別れたんですか?」

佐々木くんの声のトーンが上がった。

しかも小さくガッツポーズしてるし。

「だから、何ていうか気持ちの整理もついてないし…」

とは言え正直、もう彼への気持ちは残っていない。あるとすれば多少の情だけ。

別れる随分前から彼への気持ちは薄れていたし、それは私に限らず相手もそうだった。

だからお互いそれなりに納得した上で出したのが別れと言う決断だった。

「ちゃんと見てよ。」

そう言いながら佐々木くんの手が私の頬にスッと添えられる。

「え、なに?」

さっきまで見ていた夢の影響もあり急に心拍数が上がりだし誰もいない夜のオフィスに私の心音が響いてしまうんじゃないかと心配になる。