ふとあたしは躊躇いを覚えた。

「和紘(かずひろ)?」とあたし。

ドイツ語のリートが聞こえる。

歌曲だ。

ピアノ曲。

それに乗るあたしたちの声。

リート、歌曲だ。


それでもあたしの声のほかに和紘がいないことに違和感を覚える。

「どうすることが、一番いい選択なのかしら?」

和紘。

和紘。

聞いてる・・・?

ここにもういない彼氏。

あたしはクラスメートと挨拶。教室に戻ったのだ。

「和紘?」と長月遥。

「そう」とあたし。
溜め息。

遠距離恋愛だ。

いや。

和紘はもういない。



振られた。

それが重くのし掛かる。

どこかで響くリート。歌だ。
「パルジファルはあるとき、王が暮らす城へと行きました。

そこで儀式が行われます。

ただパルジファルが、その王に対して問いかければ、古の聖杯は蘇り荒野は再び緑の地となるのでした。

そうただ問いかければ」