お前がいる場所が、好き。Ⅰ


メールを打った後に、わたし達は再び無駄話を始めていたけれど、気がつけば2人と別れるところまで歩いていた。



「じゃあねー、沙織ー!」



「またねー!」



美咲と奈緒と別れて、わたしは自分の家のドアの鍵を開けた。



「ただいまー」



キッチンに聞こえる程度の声で言ったけれど、お母さんの『おかえり』という返事がない。
下を見てみると、お母さんの靴がなくなっている。まだ仕事から帰ってきていないのか。


わたしは靴を脱いで、自分の部屋に向かった。
鞄を部屋の隅の方へ置こうとすると、中で電話の着信音が流れた。



『増山、ごめん。メールしたばっかなのに電話なんかして』



携帯の向こうで聞こえたのは、寺本の声だった。



「ううん、大丈夫。どうかしたの?」



『夏祭りの後に、あの湖に行くことになってもいいか?』



あの湖。
夏祭りの後に綺麗な湖も見られるだなんて、わたしとしてはすごく嬉しいけれど、彼は弟さんや妹さんも連れてお祭りにいくのかな。



「全然いいけど、何かあるの? 弟さんや妹さんも一緒に夏祭りへ行くの?」



『いや、それは俺とお前の2人だけ。俺、分かったから。あの時の理由が』



「あの時?」



あの時って、どの時なんだろう。それに何の理由なのかも分からない。
首を傾げたままでいると、



『とにかく、切るな』



という寺本の声の後、電話は切れた。


あの時の理由って、何か意見を言ったりしたっけ。
記憶を探り出して、色々と思い返してみたけれど、寺本の『あの時』じゃ全然分からなくて結局思い出すことができなかった。