人には、確かに分かることと分からないことがある。けれど、川野くんが何をすれば分からなかった間、桜花ちゃんは苦しんでいたのだ。
「分からなかった、で済ませようとしないでよ! あんたがやってたことは、絶対に間違ってた!」
わたしの隣から聞こえた、怒鳴り声。
横を見ると怒ったような目つきで川野くんを睨む、桜花ちゃんの涙が溢れ出しそうになっている。
「ん、俺がやってたこと、間違ってた」
その言葉に、わたし達は目を見開いて顔を見合わせた。
てっきりまた、生意気を言うな、などと言って桜花ちゃんを苦しめるのかと思ったから。
「俺、あの時から毎日ここに来たんだ。けど、お前を見つけることは出来なかった。きっと俺のせいで学校休んだんだなって思った」
唖然としているわたし達に、真剣な顔で淡々と話す彼。
「けど俺、お前に会わなかったら変われなかった」
真剣な顔から、彼は弱々しく笑った。
「お前は俺に会ったせいで、たくさん傷ついたけれど。俺はお前に会ったおかげで変わることができた」
きっと、前に桜花ちゃんと川野くんが再会して、寺本と怒鳴り合いになって黙りこくった時にもそう思ったんだろう。
けれど、なかなか言えなくて結局黙ったままになってしまったんだろう。
「川野……」
「桜花がいてくれて、良かった」
川野くんが元カノに対して、感謝の気持ちのこもった言葉を聞くだなんて、誰もが予想していなかっただろう。わたしも思っても見ない事だった。
横を見ると、桜花ちゃんはびっくりしているような、やっと分かってもらえてほっとしたのか、よく分からない顔をしていた。
「……もう二度と、人を傷つけないでね」
淡々と言った彼女に向かって、川野くんは表情を変えずに黙ってうなずいた。



