ハレルヤ王国を東へ横断し海沿いに南下する。国で一番大きな貿易港を素通りし、最南端の小さな港町へ。そこから漁船に紛れてナバルレテ国へ向かうというのがファビオの計画だった。

 しかし――――


 しばらく月を眺めていた馬上のクラウスの後ろに、何者かが近づく気配。振り返るとそこには、同じように馬に乗った男の姿が。

 黒いフード付きのローブにすっぽりと身を包んだその男は、クラウスが振り向くとそのフードを脱いだ。すると美しい金髪の巻き毛が現れた。


「――――城は、大丈夫でしょうか」


 心配そうに言った男は、クラウスと同じくらいの年齢だろうか。繊細な絵画のような金髪巻き毛に透き通った青い瞳だが、それとは対照的にローブの下には無骨で重厚な鎧を着込んでいる。彼は少し馬を進め、クラウスに並び城を見つめた。


「……分かりません。しかし、もう舞踏会は始まっているはずです。急がないと……」

「そうですね、参りましょうクラウス殿!」


 男がそう言うと丁度、先に様子を伺いに行っていた者が二人戻ってきた。城の中までは探れなかったが、大広間の入り口は今は閉鎖されているという。

 招待客が常に出入りするような舞踏会が開催されているのに、その閉鎖は明らかにおかしい。


「――――急ぎましょう、ヨハン様!」


 クラウスは馬の手綱を打ち、城へ向かって駆け出した。『ヨハン』と呼ばれた男も、急いでその後を追って行った。