今までだって、こんな話はいくらでもあった。どこそこの貴族の息子を紹介するだとか、誰それの侯爵の息子と会ってみないかとか。舞踏会やパーティーだって、その為に参加させられているし。
だけど今はまだ、誰かと結婚したりという事は、アルベルティーナには考えられなかったのだ。
女王になってまだ二年。政もまだまだやる事があるし、やりがいもある。だから、こんな話がくるたびに、うんざりしてため息が出てしまう。
それに……アルベルティーナの心の中には、大切な想いがあった。
子供の頃からずっと、大事に温めている……そんな想いが……
「――――分かったわ、お父様。食事だけなら、その王子様とお会いします」
だけどアルベルティーナは、ため息を吐きながらもクリストフの申し出を承諾した。
女王の婚姻というものは、自分の我がままだけで決めてはいけない事なのだと彼女は思っていた。国の事を考え、国民の事も考え。誰もが幸せになれる結婚をしなければいけないと……
(私は、この国の女王なのだから……)
アルベルティーナは父親ににこりと笑顔を向けながら、奥歯をぎゅっと噛み締めた。
「――――ねえ、ティナ」
すると、ずっと二人のやり取りを静観していた母親が、初めて口を挟んだ。