「ミサって呼んでた…」

帰り道、準備室での会話をまた思い出していた。

私の事は高橋さんって呼ぶのに……

何でお姉ちゃんなんだろう。

お姉ちゃんと私は何が違うんだろう。

って、何もかも違うか。

明るくて美人でしっかりしてて誰からも愛されるお姉ちゃん。

私とは正反対。

幼くして両親を亡くし、歳の離れたお姉ちゃんはたくさんの事を諦めて親代わりとして私を育ててくれた。

大好きなお姉ちゃん。

いつだって私の事を一番に考えてくれるお姉ちゃん。

本当なら心から喜んであげたいのに。

やっと、やっと、自分の幸せを掴んだんだねって。

だけどその相手がどうして私の初恋の人なんだろう。

人は言うかもしれない。生徒が先生を好きになるのは一時的な感情だと。憧れの延長だと。

それでも先生が私に向けてくれるあの優しい笑顔。

時々、頭に触れてくれるあの手の感触。

それらは私が先生を異性として意識するには十分で…。

だけど、どれもこれも私がお姉ちゃんの妹だと知ってたから?

優しい笑顔も全部、自分の好きな人の妹だから?

そうじゃない…先生はそんな人じゃない。誰に対してもそうであって私だけが特別なんかじゃない。

そんなこと分かってる。

だからこそ、そんな先生に惹かれた。その思いは急速に膨れ上がり、憧れだったのがいつしか好き、って言う気持ちに変わっていった。

生まれて初めての感情だった。

なのにーーー

神様は意地悪だ。

私から両親だけじゃなく、お姉ちゃんも、そして好きな人も奪った…

家に帰りたくない…

学校にも行きたくない…

自分の幼稚さに呆れるけれど嫌なものは嫌だ。

家でも学校でもお姉ちゃんや先生の幸せそうな顔を見ては自分が失恋したんだなって思い知らされるなんて悲しすぎる。

失恋したと言う現実が私の体に今この瞬間もまとわりついてくる。

ぐるぐるぐるぐると鎖のように私の体を心を締め付けただ息を吸うことすらも苦しくする。