そしてもう一つ、予想外だった事。それは再婚から五年後に、急に心臓の発作で父親であるシーモア伯爵が倒れてしまった事だ。

幸いな事に意識ははっきりしていたし意思疎通にも問題はなかったが、発作以降シーモア伯はぐっと老け込み、ほとんどベッドから出ない寝たきりの生活になってしまった。これはグレースだけでなく継母にとってもかなり予想外の出来事で、その後のシーモア伯爵家にも大きな変化をもたらした。

主人が病床にあるのにその夫人がパーティなどの場所へ出入りするのは好ましくない。
それは華やかな社交界で噂話に興じるのが好きな継母にとって耐え難い退屈な生活だったし、その八つ当たりをされるグレースにとっても幸せとは言えなかった。