窓から日差しが差し込む。



「んっ…」



私は体を伸ばして起きる。



ここ…は…。



一瞬どこだと思ったが、昨夜のことを思い出した。



ほんと、お姫様になったみたいな気分だよ…。



引きこもり生活からは想像もつかない部屋だ。



私は着替えはそのままで指で軽く髪をとく。



私、本当に何にも持ってないな…。



とくに何もすることがなく、部屋から出て階段を下りる。



「おっ起きたか。



おはよう樹里。」



階段を下りてすぐの机でアレクさんがメガネをかけ、優雅にコーヒーを飲んでいた。



机の上には原稿のようなものが少し散乱している。



「お、おはようございます。



アレクさん、メガネかけていらっしゃったんですね。」



なんて、どうでもいいことを私は言う。



少しでも、会話に慣れていきたいからだ。



「あぁ、集中しやすいからな。」



結局それで会話は終わってしまう。



アレクさんも忙しそうに原稿と向き合っているし、いまは邪魔だよね…。



なんて思っていると



「アレクってば、原稿片付けなよね。



朝食の用意できないじゃないかっ。」



そう言ってお盆を抱えてキッチンから出てきたのは昨夜の少年だった。



「お、おはようございますっ」



私は慌てて挨拶をするも、金髪の少年は無視。



「はいはい、今片付けるよ。」



そう言ってアレクさんはせっせとかき集める。



「そういえばアレクさん、小説家って言ってましたけど、どんなお話を書いているんですか?」



「そ、それはだな…。」



アレクさんは目を泳がせる。



「無駄だよ。アレクのやつ、誰にも教えようとしないんだ。まっ、興味なんかないけど。」



そう冷たく言い放つ金髪の少年。



「そ、そうなんですね…。少し残念です。」



「まっ、そんなに知りたいなら発売したら買うといい。」



アレクさんはそう言ってその場から逃げ出すように階段を上がっていった。



買うって…私、お金なんてないし。



お金…。



そうだ!服とかいろいろ買わないとってアレクさんにいうつもりだったんだ!?



「おはよう、ナツメ君。



わぁ〜今日は目玉焼きだ!」



そう言って現れたのは薄茶色の髪をした青年だった。



とってもおっとりとしたオーラで、優しそうな人だ。



「カイラっ!おはよう!!」



急にパッと明るくなる。



い、いきなり、キャラが変わっている…!?



私は一人驚いて固まってしまう。



「あれ?この子は??」



そう言ってカイラと言われた青年が私を見つめる。



「あっ、えっと…私は…」



私が名乗ろうとすると



「おい、なぜここに女がいるんだ。」



新たに階段から下りて来たのは黒髪の青年だった。



「おはよう、クロウ。



僕も今彼女の名前を聞こうとしてたんだ。」



「アレクに説明させれば…。



アレクが昨夜連れ込んだんだ。」



金髪の少年がそう言う。



「あー、悪りぃ悪りぃ。



説明してなかったな…。まぁ、朝食食べながらでも」



そう言ってアレクさんが登場した。



知らない人、それに男の人ばかりだ。



そう言って私たちはダイニングへ向かう。



とは言ってもものすごく広い。



机も大きく、大人数で食べるには適している。



私はアレクさんの隣に座らせてもらう。



「いただきます。」



「おい、アレク。



説明しろ。」



そう言って黒髪の青年、クロウさんが言う。



ですよね…。



「あー、はいはい。



こいつは昨夜この屋敷を訪ねて来て、住む場所がないようだし、訳ありのようだがら好きなだけいろと言って今日から一緒に住むことになったんだ。」



「雑っ!アレクの説明は相変わらず雑いよね…」



呆れたように金髪の少年、ナツメさんが言う。



まぁ、手短にまとめた感じがするとは思うけど。



「ていうか、そんなやつ怪しすぎじゃないか!



今すぐ追い出した方がいいんじゃないの?



何かやらかされる前にさ…」



ナツメさんが冷たい目だ私を見る。



「まぁまぁ、ナツメ君。



確かにわからないことだらけだけど、きっと大丈夫だよ。アレクを信じよ?」



そう言ってナツメさんをなだめるように優しくいうカイラさん。



「俺は反対だ。」



キッパリとクロウさんが言う。



「お前が女嫌いなのはわかっている。



でも、そろそろ克服したらどうだ?



そのためにもいいと思うが?」



アレクさんはどうだとでも言いたげな顔をしている。



「…アレクがそこまで言うなら、許そう。」



思っていたよりすぐに了承を得ることができた。



この屋敷はアレクさんのもので1番偉いのはアレクさんなのだろうか。



みんなの様子を見ているとそんな感じがする。



私はそろそろだと思い自己紹介をする、



「あ、あの。



これからお世話になります、綾瀬 樹里です。



よろしくお願いします。」



「僕はカイラ。



よろしくね樹里ちゃん。」



そう言ってニコリと微笑む。



「はぁ、僕はナツメ。



いい?最低限僕と関わらないでね。面倒ごとは好きじゃないんだよ。見るからに鈍臭そうだしね。」



ため息をつきつつもしっかり自己紹介をし、パクっとパンをかじる。



「は、はい…」



「俺はクロウだ。」



名前だけ言ってすぐにスープを飲む。



…女嫌いなんだっけ?



仕方ないのかな??



「クロウのことは気にしないで。



もともと無口だから。」



コソッとカイラさんが教えてくれる。



「そ、そうなんですね。」



そして私も朝食を食べ始める。



パンをちぎってジャムをつける。



おいしぃ〜。



続いてスープも飲む。



サラダやフルーツもどんどん食べていく。



「樹里ちゃんはすごく美味しそうに食べるね。



幸せそうでなにより。」



そう言ってクスリと笑うカイラさん。



そ、そんなに?



「俺としてはそんな風に食べてもらえると嬉しいと思うが。」



アレクさんもそう言う。



そ、そんなに幸せそうに食べてるのかな?



だってご飯美味しいし…



「よかったね、ナツメ君。こんなに美味しそうに食べてもらえて。」



カイラさんがナツメさんに向かって言う。



これ、ナツメさんが作ったの!?



想像つかない。



「誰もあんたのために作ってないけどね。」



とぶっきらぼうに言う。



「でも、美味しいです」



私はそう伝えて次から次へと口に放り込む。



そんな中でもクロウさんは無言だ。



すると



ピンポーン



チャイムの音がなった。



アレクさんの肩がビクリと揺れる。



「あっ、私が見て来ますよ。



ほら、仕事与えるって昨夜言ってましたし。」



私はそう言って玄関へ向かう。



「はーい。」



するとそこには小学生ぐらいの幼女がいた。



写真の人とは違うな。



焦げ茶の髪を下ろしている。



サラサラのロングヘアだ。



「お姉さん誰?」



きょとんと首をかしげる姿がとても愛らしく思える。



「え、えっと…」



「クロエ?!」



すると私の後ろからクロウさんが出てくる。



へ?クロエ??



「お兄ぃ様ぁぁぁっっ♡」



そう言ってその子はクロウさんに思いっきり抱きつく。



「なんだ、クロエか。ほら、上がるといい。」



そう言ってアレクさんがスリッパを用意する。



ちゃんとスリッパなんてあるんだ…。



そんなことに感心してしまう。



そして、ダイニングに一人増えた。



と言ってもその子はもう朝食を食べたらしいので、オレンジジュースだけだ。



「お兄ぃ様ぁ♡」



ずっとクロウさんにべったり。



「妹のクロエだ。」



そう一言告げるクロウさん。



い、妹っっ!?



女嫌いでも妹さんは大丈夫なんだ…。



「私は綾瀬 樹里です。



よろしくね、クロエちゃん。」



私が挨拶をするもジーっと睨みつけられている。



え、えーっと…



「樹里さんはなぜここにいますの??」



「え、あ、わ、私は昨夜アレクさんに拾っていただき…今日から住まわせてもらっているんです。」



「でしたら、お兄様のことどう思っていますの?」



クロエちゃんは体を私の方へ傾ける。



いきなりそんなこと言われても…。



わからないよ…。



「え、えーっと、女嫌いの無口な人?」



「本当にそれだけですの?」



「は、はい…」



「大丈夫だよ、クロエちゃん。



今、アレクに聞いたけど、樹里ちゃんが泊まっている部屋はアレクのお嫁さん候補の部屋だから。」



「そうなんですの!?



ならよかったですわっ



よろしくお願いしますの」



そう言ってニコニコ笑う。



な、なんなの…。



それに、カイラさんが言ったお嫁さん候補の部屋って…。



やっぱり…。



「ほんと、アレクってば拾ったばっかの人をそんな部屋にするなんてね。」



そしてナツメさんが「バカじゃないの?」と言う。



「そう言う意味じゃねえよ!



ただ、女が泊まれるような部屋がなかったからだ!」



「そうですよ!ナツメさん!!



そんな部屋私にはもったいないぐらいですし私は、もっと狭くてボロボロなところでも構わないです」



ついうっかり私も口を出してしまう。



「もう、なんでも構いませんわ。



兄様に手を出さなければ」



呆れたように言ってクロエちゃんはクロウさんの腕にギュッと抱きつく。



なんとなくわかった気がする。



クロエちゃんはブラコンなのだろう。



それに対するクロウさんの対応はなんでもないような感じだけど…。



「そういえば、アレクさん。



その、私…持ち物とか何にもないので、あれこれ欲しいと言うわけではないんですけど、その…必要最低のもの…。服とかそう言うものだけでいいので、買いに行けないでしょうか?」



私は恐る恐るアレクさんの顔を伺う。



「あぁ、そうだったな。



それならついて行ってやる。」



「あ、ありがとうございます!」



一人で行くにしても、どこに何があるのかが全くわからない。



この世界の人といないと私は迷子になるに決まっている。



「まぁっ!



初デートと言うことですわね!!」



クロエちゃんがキャッキャッと嬉しそうに騒ぐ。



で、デートって…。



私には全く無縁だったな、元いた世界では。



引きこもりには当然彼氏なんていない。



そもそも友達すらまともにいないのにいるはずがない。



「兄様!



クロエたちも一緒にしましょう!」



「…断る。」



よ、容赦ないな…。



「あ〜んっ!



お兄様ったら照れちゃってぇ〜!!」



そう言ってクロエちゃんはクロウさんのことをつんつん突く。



いや、照れてはいないと思うけど…。



「俺は忙しいんだ。」



「そんなぁ…。



でも、お仕事で忙しいお兄様も素敵っっ♡」



落ち込んだかと思いきや瞳をキラキラさせている。



そうとうなブラコンだな…(汗)



「クロエちゃんはクロウさんのことが大好きなんだね。」



私はクロエちゃんに話しかける。



「当然ですの!!



大好きなんてもんじゃありませんわっ、愛してますもの♡



私はお兄様さえいたら何にもいりませんもの!!」



そんなクロエちゃんが可愛らしくてつい笑ってしまう。



「でも…兄妹だから、結婚はできませんのぉぉ」



そ、そっか…



「でも、そんな風に誰かを全力で愛すことができるなんて素敵だと思うなぁ。



それに、愛の前ではどんなことも関係ないよ!



やっぱり女の子だからそーゆーの憧れるんだよね〜」



「樹里さん…あなたわかっていますわね!!



これからよろしくですわっ!



私はこれから学校がありますので、失礼しますの。」



「ばいばい。」



やったよ私!



こんな風に話せるだなんて…。



私は机の下で小さくガッツポーズをする。