ざわざわする人たち。みんなの視線が前にいって、すぐにある人物が私の視界に入るとドキリとした。




「…ほんと危なっかしい」




その人物は走ってきてくれたみたいで、息を切らしながら言う。





「…車まで送るから大人しくしてろ」








ある人物とはもちろん詩優だ。







パシッと私の手首を掴んで早足で歩く。







「詩、優…」


「…ごめん…」






ぽつり、と話す詩優の声が確かに耳に届いた。






「…俺のこと嫌いにならないで」





…嫌いになんてなるはずないのに……
その声は少し悲しさが含まれている。





「…今日……詩優の部屋泊まる。だからかっこいいとこ見せて…」





今日は火曜日で詩優の部屋に泊まる日じゃないけど…
会合があるから「帰りが遅くなるかも」とお母さんに言ったら「夜瀬くんの家に泊まってもいいわよ」と言ってくれたんだ。





「りょーかい」





口角を上げる彼はどこか満足そうな表情へと変わった。