「未央はただ俺の後ろにいるだけでいい。
あいつを苦しめてから始末してやる」

「どう、してそんなこと…」


神田くんに何の恨みがあるというの?


「……龍崎」
「え…」

「俺の本当の名前は龍崎良樹。龍崎組っていう組をまとめていたのが俺の父親だった」


初めて聞く真相に、目を見張ってお兄ちゃんを見つめることしかできなくなる。


「そんな龍崎組は潰されたんだ。神田組に。それもひどいやり方で。結果父親は刑務所送りで、母親はそれが原因で鬱になり最後は自殺した」


悔しそうに顔を歪めるお兄ちゃんには、復讐心が宿っているようにも思えた。


「その真相を知ったのは小学四年の時、龍崎組の生き残りが俺を探し出してそう説明されたんだ。

それまで俺は未央と兄妹で、家族の一員なんだって思ってたからショックは相当大きかった」


私をじっと見おろしていたかと思うと、また私を抱きしめだして。

それもぎゅっと力を入れ、苦しいくらい。


「唯一救われたのがその生き残りの奴らが俺の本当の父親に依存していたこと。だからガキだった俺に対しても敬い、敬語を使われた。俺は父親の後を継ぐ、その時からすでにトップの座にいたんだ」


小学四年の時。
それは本当に子供の時だ。

私は小学二年で、その頃の記憶を思い出せと言われてもあまり詳しくは思い出せない。


「許せなくて、復讐したくて。
そんな時…」


まだお兄ちゃんが話していたけれど、その時乱暴にシャッターが開けられる音がして。

そこにふたりして視線を向ければ───



「……っ、かんだくっ…」


学校帰りだったのか、まだ制服姿の神田くんが視界に映ったけれど。

メガネやネクタイはしておらず、制服が乱れ所々に白いシャツから血が滲んでいる。


「やっと来たか、神田。
てっきり前の奴らにやられてたのかと思ったぜ」

「……あんな弱い人たちに負けてたら、若頭なんてやってられないね」


神田くんの声もまた静かで、冷静で。

お兄ちゃんを見つめる瞳は冷たく、殺気すら感じられた。