きみのひだまりになりたい



ええと……。
何からつっこむべきか。


思いがけず情報量が多く、戸惑っていると、話を広げていた女子ふたりがわたしに気がついた。やば、と片方が小さくつぶやいた。


楽しげだった雰囲気がこおりつく。


凝視しすぎていたのが失礼だっただろうか。申しわけない。どうも、あの、田中まひるです、不良じゃあございやせん、お見知りおきを。なんつって、冗談ぽく言ってみようか。




「……す、すみません!!」


「え」




先になぜか謝られてしまった。ばつがわるそうに女子たちは走り去っていく。


自販機に用があったんじゃないの……?


って、あ、しまった。デキてるってうわさ、否定するの忘れてた。

ちがうんだよ。そういう関係じゃないんだよ。高校生のうわさの広まり方は予想以上に早いから、木本くんの耳に入っていやがられる前に収束させたかったんだけどなあ。



ズズズ、と耳心地のわるい音がして、はっとする。甘酸っぱい味がしなくなった。無意識のうちに飲み尽くしていたんだ。2杯目もあっという間だった。

みかんの香りが口に残る。最後の最後までけちくさく味わいながら、紙パックをうすっぺらくつぶした。平たくさせた長方形を小さく折りこみ、自販機の横に設置されているゴミ箱に投げ捨てる。




「……木本くん、今日は教室で食べたんだ」




ふたりの女子の会話の中で、一番重要なポイント。独りを望んでいた木本くんが、なんと昼休みに自ら、にぎわう教室で過ごしていたという。屋上にいなかったのはそういうことだったのか、となっとくしたし、おどろいた。


急にどうしてだろう。心境の変化? 気分転換? クラスメイトと仲良くなろうと思い始めた? 真意は何であれ、これを機に独りでいようとしなくなったらいいな。


いいな、って、本当に思ってる。本当に本当の本心。


でも……もう、屋上には来ないのかな。

それはやだな。これも、本心。


あの時間が特別だったのは、わたしだけ?


さみしさが募る。ひよりんの気持ちが痛いくらいわかった。今度、ひよりんとごはんを食べよう。ただもう少しだけ、屋上で待っていたい。