ノヴレスとカミーラは高速移動で、その場から消えた。それを遠くから目視したミネルヴァ姉さまが迎撃の為に魔法を放つも、暗黒から召喚されたレイピアのように先の尖った剣が素手で掻き消された。カミーラはそのままの勢いでミネルヴァお姉さまの眼前へと移動した。そして振り上げた手を、躊躇なく突き出すと手刀は容易く心臓を貫き突き破った。

イスカは恐怖で最奥まで退いていたようだった。そして仲間がやられるのを見ながら、自分の周りだけに防御結界を張っていた。そうして身を隠すもノヴレスは瞬時に結界を看破し打ち破る。

叩きつけられたガラス細工の様に結界は脆くも崩れさり、イスカは必死に震えながら地べたを這いずって逃げ惑う。その姿をしばし傍観していたノブレスだったが、邪悪な愉悦の表情を見せる。遠目から見ていても何が起きたのか分からなかったが、ノブレスがゆっくりと踵を返した瞬間にはイスカの身体は細切れになり、断末魔をあげる間もなくカーペットに散らばった。

仲間が絶命する瞬間、その一連の様子は目を背けたくなるものだったが、ティケルヘリアの”遊び”によって強制的にオレはその様子を目に焼き付けられた。腕をオレの首に回しながら、ティケルヘリアはオレの瞼をこじ開けミネルヴァとイスカが惨殺される様子を無理矢理に見せていたのだ。

「あらティック、まだそんな屑を生かしていたの?」
「なんならアタシが殺してやるゼ?ひゃははっ」

返り血に染まったカミーラとノヴレスがいつの間にかオレの目の前に戻ってきていて、ゆっくりと歩み寄ってくる。

怖い。怖い。死ぬ?殺される?いやだ。いやだ。いやだ。いやだ!

「ひゃはっ、やめて。殺さないで。ははは」

オレは敵前でボロボロと涙を零しながら、恐怖から笑いがこみ上げていた。情けなくも敵に命を助けて欲しいと懇願している。目の前で死んでいった仲間の様子は生々しすぎた。ゲームの世界の死とは違う、小説の中の人物の死とも隔絶された、生命としての本当の死の様をまざまざと見せつけられたのだ。

「くすっ、あらやだ壊れちゃったのね」

パーティーは全滅。蘇生する術のないこの世界。ここで殺されたらオレはどうなる?
楽観的に考えればインデックスの言っていた世界の理に従ってセーブポイントに戻り蘇るのかもしれない。でも、それはこの世界の住人に当てはまるルールであって”転生者”である外の世界から来たオレにも当てはまるとは限らない。

もしも、もしもこの世界での死が、そのまま現実世界での死を意味しているのだとしたら。死ぬ、死ぬ?たった15年しか生きていないのに、まだ彼女作ったり、大学に通ったり、何かやりたいことを見つけて、それでそれで・・・・・・・

「ははっ・・・・・・・は」
「----おや?おやおやおや?」

逃れられない死を目の前にオレは頭が真っ白になった。遠くに聞こえたのは、いつまでも呪いの様に染みつく不快な音と、ティケルヘリアの無慈悲な言葉だった。

ああ、神様ーーせっかく念願だった異世界転生を果たせたって言うのに、世界がこんなにも無残で、救いのない場所であって良いんですか?

「私は恐怖に歪む様を見るのが新鮮な生き血よりも大好物なのです。壊れてしまったマリオネットを愛でる趣味はありません。サヨウナラ」

グチャ。

首筋が焼けただれる様に熱くなったかと思うと、ゴトっと鈍い音が頭蓋に響いた。それを境にオレの意識は完全に途絶えた。