お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。



コソコソと暗躍していた準備期間を終え、せっかく一緒に居られる時間ができたと思ったのに。

そんな私の心境は、つゆ知らず。

アレンはにこやかな笑みで私とルコットに手を振っている。


「ニナ様!僕では頼りないかもしれませんが、精一杯お勤めしますので…!」


「あっ、えっと!ルコットに不満があるわけじゃないの…!」


苦笑してこちらを見つめるルコットに慌てて訂正する私。

ダメだ。

アレンが側にいないからといって気落ちしている場合じゃない。

私は今から、真の黒幕を相手取り、返り討ちにしなくてはならないのだから。


(“お嬢様…!私が見ないうちにだいぶ成長なさったのですね…!”ぐらい褒められるように頑張らないと…!)


その時、ルコットがきゅっ!とネクタイを締めて口を開いた。


「まずは、戴冠式に出席しているゲスト達に挨拶をしながら情報収集をいたしましょう!」


「そうね!付け焼き刃だとしても、一ヶ月の成果としてお嬢様力を見せつけなきゃ!やるわよ、ルコット!えいえいおーっ!」


「おーっ!!です!」


きゃっきゃ、と満面の笑みで会場に駆け出す私たち。

その背中を見送るアレンは終始、はじめてのおつかいを見送る親のような顔をしていたが、サーシャは、くすり、と微笑ましいような笑みを浮かべていたのだった。